はじめに
犬の消化器疾患について、初めて知る方にもわかりやすく解説します。
この記事の目的
- 飼い主さんが気づきやすい症状や日常でできる対処、病院での診断・治療のポイントをまとめます。具体例を交えて、早めに対応できるようにします。
消化器疾患とは
- 胃や腸、肝臓、膵臓など、食べ物の消化や栄養の吸収に関わる臓器の病気を指します。症状は軽い下痢や嘔吐から、元気消失や食欲不振、体重減少など重い状態まで幅があります。
誰が読むべきか
- 日頃から愛犬の様子を観察している飼い主さん、何か異変に気づいたときにすぐ行動したい方に向けています。
この記事で学べること
- 主な症状の見分け方、代表的な疾患の特徴と原因、受診の目安、家庭でできるケアや予防法について順に解説します。早期発見と適切な対応が、犬の回復につながります。
犬の消化器疾患とは
定義と対象臓器
犬の消化器疾患は、胃や腸、肝臓、膵臓、胆嚢など消化に関わる臓器で起こる病気の総称です。軽い下痢や嘔吐から、命に関わる重い病気まで幅があります。
症状の幅と具体例
- 軽度:一時的な下痢、嘔吐、食欲のむら
- 中等度:持続する下痢や嘔吐、体重減少、元気の低下
- 重度:血便や嘔吐、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、急な腹部膨満やぐったり
例)急性の食べ過ぎで一時的に嘔吐する場合と、慢性的な炎症で体重が徐々に落ちる場合とでは対応が異なります。
代表的な疾患(例示)
- 急性胃腸炎:短期間の嘔吐・下痢
- 慢性腸疾患(炎症性腸疾患): 数週間〜数カ月の下痢や体重減少
- 胃拡張・胃捻転:大型犬で急変する危険が高い
- 寄生虫感染:子犬で多く見られることがある
- 膵炎、肝臓病、膵外分泌不全など
主な原因(簡潔に)
食事の急変や誤食、感染、寄生虫、食物アレルギー、薬の副作用、腫瘍や代謝性疾患などが挙げられます。
誰がかかりやすいか
子犬や高齢犬、大型犬、免疫力が落ちている犬はリスクが高くなります。
早めの対応の重要性
一時的な症状でも様子を見ることが多いですが、血が混じる、元気がない、何度も吐くといった症状は早めに受診してください。診察で原因がわかれば、点滴や薬、食事管理などで改善することが多いです。
主な症状
以下では、犬の消化器疾患でよく見られる主な症状と、飼い主が確認しやすいポイントを分かりやすくまとめます。
- 下痢
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水っぽい便、粘液や血が混じる便などがあります。回数が増えたり、長引く場合は脱水や栄養不良につながります。
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嘔吐
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食べ物や胃液を吐くことがあります。1回だけなら様子を見てもよい場合がありますが、繰り返す、血が混じる、元気が急に落ちるときは注意が必要です。
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便秘
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排便が少なく、固い便や排便時の痛がる素振りが見られます。長時間の便秘は腸閉塞の可能性があります。
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食欲不振・体重減少
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食べなくなる、痩せるときは慢性的な疾患や消化機能の低下が考えられます。
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腹痛・腹部膨満
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お腹を触ると嫌がる、みぞおちを丸める、膨れている感じがあれば早めに受診してください。
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脱水・元気消失
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口の中が乾く、目が落ちくぼむ、ぐったりしている場合は重症のことが多いです。
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黄疸や便の色の変化
- 皮膚や目の白い部分が黄色くなる、便が白っぽい・黒っぽい場合は肝臓や胆嚢の問題が疑われます。
緊急で受診したほうがよいサイン:繰り返す嘔吐や下痢、血便、ぐったりして動かない、飲まず食わずが24時間以上続く、呼吸が速い・苦しそう。早めの受診で重症化を防げることが多いです。
主な疾患の特徴と原因
ここでは主な消化器疾患について、特徴と原因を分かりやすくまとめます。具体例を交えて説明します。
急性胃腸炎
特徴:突然の嘔吐や下痢、元気消失、脱水が起こります。重症化するとぐったりします。
原因:細菌やウイルス、腐ったもの・異物の摂取、食事の急な変更などが多いです。
例:散歩中に拾い食いをした翌日から嘔吐が始まる。
慢性腸疾患(IBDなど)
特徴:長期の下痢、体重減少、食欲のむらが続きます。
原因:免疫のバランスの乱れ、食物の反応や腸内環境の異常が関係します。
胃拡張・胃捻転(GDV)
特徴:食後すぐにお腹が大きく張り、あえぐ、よだれが出るなどの症状が出ます。命に関わる緊急状態です。
原因:大型犬で一度に大量に食べる、食後すぐ運動することが誘因になります。
寄生虫感染
特徴:下痢、嘔吐、成長不良、血便が見られることがあります。
原因:回虫、鉤虫、鞭虫、コクシジウムなどの寄生です。子犬で多い傾向があります。
膵炎・膵外分泌不全(EPI)
特徴:激しい嘔吐や下痢、脂肪便、体重減少が見られます。
原因:膵臓の炎症や酵素の不足です。特定の肥満や薬剤が関係することがあります。
大腸炎・大腸がん
特徴:血便や粘液便、便秘や頻回の排便が見られます。
原因:炎症性疾患や腫瘍、感染が原因となります。
小腸の吸収不良
特徴:体重が減りやすく、栄養不足が顕著になります。
原因:腸の慢性的な病変や消化酵素の不足、寄生虫などが関与します。
食物過敏(アレルギー)
特徴:下痢とともに皮膚のかゆみや発赤が見られることがあります。
原因:特定の食材に対する免疫反応です。
肝臓・胆嚢疾患(胆泥など)
特徴:嘔吐、元気消失、黄疸、便の色の変化(白っぽいなど)が見られます。
原因:感染、代謝異常、脂質の異常、膵炎の併発など多岐にわたります。
原因
概要
犬の消化器疾患は、原因が一つに絞れないことが多く、複数が重なる場合もあります。ここでは代表的な原因を分かりやすく説明します。
感染症(ウイルス・細菌・寄生虫)
- ウイルス:犬パルボウイルスなど、腸に強いダメージを与えるものがあります。急に激しい下痢や嘔吐を起こします。
- 細菌:サルモネラやカンピロバクターなどが食べ物や環境から入ることがあります。下痢や血便を引き起こすことがあります。
- 寄生虫:回虫、鉤虫、コクシジウム、ジアルジアなどが慢性的な下痢や栄養不良の原因になります。
食事の変化・誤食
- 急なフードの切り替えや人間の食べ物を与えることが消化不良を招きます。
- ゴミや異物、植物、薬品の誤飲は嘔吐や腸閉塞を起こすことがあります。
ストレス・環境変化
- 引っ越しや来客、留守番の増加などでストレスがかかると消化機能が乱れ、下痢や食欲不振が出やすくなります。
遺伝的要因・体質
- 一部の犬種は特定の消化器疾患にかかりやすい傾向があります。例えば、消化管の過敏さや食物アレルギーが出やすい個体もいます。
他の疾患の影響・薬剤・毒物
- 膵炎や肝炎、内分泌疾患が消化症状として現れることがあります。
- 抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが副作用で胃腸障害を起こすことがあります。
まとめの代わりにひとこと
複数の要因が絡むことが多いので、長引く症状や重い症状がある場合は早めに獣医師に相談してください。
診断と治療のポイント
いつ受診するか(緊急の目安)
軽い下痢や一度きりの嘔吐で元気・食欲が保たれている場合は自宅で様子を見ても構いません。ただし、次のようなときは早めに動物病院へ行ってください。
- 下痢が3日以上続く
- 嘔吐が止まらない(丸一日以上、水が飲めないなど)
- 元気や食欲が著しく落ちる
- 血便・激しい腹痛(触ると嫌がる、背を丸める)
診断の流れ
獣医師は問診で症状や誤飲の有無、既往歴を確認します。必要に応じて次の検査を行います。
- 血液検査:脱水や感染、臓器の状態を調べます。
- 便検査:寄生虫や血液の混入、細菌の有無を調べます。
- 画像検査(超音波、レントゲン):腸閉塞や腫瘍、異物を確認します。
- 内視鏡検査:粘膜の直接観察や異物の回収を行うことがあります。
治療の基本
- 薬物療法:抗生剤や消炎薬、駆虫薬など、原因に合わせて投薬します。症状を抑えつつ原因を狙います。
- 点滴・補液:脱水がある場合は点滴で体液と電解質を補います。
- 食事療法:消化に優しい療法食やアレルゲン除去食を一定期間与えます。
- 手術:腸閉塞や重い器質的疾患では外科処置が必要になることがあります。
自宅での対応と注意点
水分補給を心がけ、嘔吐が続く場合は獣医師の指示で絶食や流動食にします。薬は指示通りに投与し、改善しない場合は再診してください。記録(嘔吐回数、便の状態、食欲)を取ると診断に役立ちます。
日常のケア・予防
定期的な健康診断と寄生虫予防
定期的に動物病院で検診を受けましょう。年に1回は体重や歯、皮膚、糞便検査、必要なら血液検査を行うと安心です。寄生虫予防は獣医師の指示に従って定期投与を続けてください。フロントラインなどのスポット薬や経口薬の種類は犬種や生活環境で異なります。
フード管理—急な変更を避ける
フードを変えるときは7〜10日かけて少しずつ切り替えます。新しいフードを混ぜる比率を徐々に増やすと下痢や嘔吐を防げます。人の食べ物や味付きのおやつは与え過ぎないでください。
生活環境とストレス対策
規則正しい生活リズムと十分な運動で胃腸の調子を整えます。安全な静かな休み場所を用意し、噛むおもちゃや知育玩具で退屈を減らします。引越しや来客などの変化があるときは、いつもより注意深く観察しましょう。
誤飲・誤食の防止
小さな玩具、薬、洗剤、果物(ぶどう・レーズン)やチョコレートは届かない場所に保管します。ゴミ箱は蓋つきにし、散歩中は拾い食いをさせないようリードで制御します。
異常に気づいたら早めに相談
嘔吐が続く、血便、元気がなく食べない、腹部が張るなどがあれば早めに受診してください。日付・時間・症状のメモや、食べたものの記録を持って行くと診断がスムーズになります。
まとめ
犬の消化器疾患は種類や原因が多く、症状もさまざまです。早めに気づいて対処することが、重症化を防ぎ健康を守る第一歩になります。
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日々の観察が大切です。食欲、元気さ、嘔吐の有無、便の色や回数をチェックしてください。たとえば、普段より食べない、下痢が続く、血の混じった便が出るなどは注意信号です。
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予防は負担の少ない対策から始めましょう。急な食事の変更を避ける、食べさせてはいけないもの(玉ねぎやチョコなど)を与えない、適切な体重維持と寄生虫対策を行うことです。
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異変があれば早めに獣医師に相談してください。短時間で改善しない嘔吐や血便、高熱、ぐったりした状態、脱水症状が疑われる場合はすぐ受診が必要です。
毎日の小さな観察と、予防的な生活習慣が愛犬の消化器の健康を守ります。不安なときは迷わず専門家に相談しましょう。