目次
はじめに
ご挨拶
本書は、生後約4か月前後の子犬がご飯を食べなくなったときに、飼い主さんが落ち着いて原因を探り、適切に対処できるように作りました。子犬の食欲不振は珍しくありません。早めに対策することで、体調悪化を防げます。
対象と目的
対象は、乳歯が生えそろい離乳後から成長期に入るころの子犬とその飼い主さんです。目的は「なぜ食べないのか」を分かりやすく示し、家庭でできる基本的な対応と、病院受診の目安を伝えることです。
本書の使い方
第2章で主な原因と家庭での対処法、第3章で病気が原因の場合の見分け方と治療の流れ、第4章で特に注意すべき症状と緊急対応を解説します。まずは第2章から順に読み、気になる点があれば動物病院に相談してください。
注意事項
本書は一般的なガイドです。症状が急に悪化する、元気がない、嘔吐や下痢が続くなど明らかにおかしい場合は早めに獣医師に相談してください。
子犬がご飯を食べない主な原因
1. ストレス・環境の変化(ニューオーナーシンドローム)
飼い主や住環境が急に変わると、子犬は強いストレスを感じます。これを「ニューオーナーシンドローム」と呼び、食欲低下だけでなく下痢や嘔吐を伴うことがあります。対処法は静かな環境を作り、決まった場所で食べさせることです。新しい匂いや人に慣れるまでは、時間をかけて少しずつ接しましょう。
2. 食事量・与え方が適切でない
子犬の胃は小さいため、一度に多く与えると食べきれません。年齢や体重に合わせて1日に複数回に分けて与えてください。例えば生後2〜3か月なら1日3〜4回に分けると消化負担が減ります。食べ残しを放置せず、食事の量を調整しましょう。
3. 運動不足
適度な運動は食欲を促します。遊びや短い散歩で体を動かすと、食べる意欲が出やすくなります。過度に長い運動は逆効果なので、子犬の年齢に合った軽い運動を心がけてください。
4. 食事の質や嗜好性
匂いや食感が合わないと食べないことがあります。ドライフードにウェットフードを少量混ぜる、ぬるま湯で香りを立たせる、といった工夫が有効です。新しいフードに替える時は数日かけて少しずつ混ぜて慣らしましょう。
5. 低血糖(特に小型犬)
小型犬の子犬は低血糖になりやすく、元気がなくなったり震えたりします。急に食べなくなった場合は注意が必要です。ぐったりしている、痙攣があるなど重い症状が出たら、すぐに動物病院へ連絡してください。
6. 誤飲・誤食
異物を飲み込むと胃腸の不調や痛みで食欲が落ちます。おもちゃや小物を口に入れていないか確認し、異変があれば獣医に相談します。
7. 成長段階による変化
成長の過程で一時的に食欲が落ちることがあります。歯が生え変わる時期は噛むのがつらくて食べにくくなるため、柔らかい食事に替えて様子を見てください。
どの原因でも、長く続く場合や元気がない場合は早めに獣医師に相談しましょう。
病気が原因の場合
はじめに
子犬がご飯を食べないとき、単なる好き嫌いで済む場合もありますが、病気が隠れていることが多くあります。早めに原因を見つければ回復が早く、体力の低下も防げます。
消化器系の病気
胃腸炎や寄生虫、食物アレルギーが考えられます。症状は嘔吐、下痢、血便、腹痛やお腹の張りです。寄生虫は便検査で見つかることが多く、駆虫で改善する場合があります。
感染症
パルボウイルスやジステンパー、レプトスピラなどの感染症は重篤になりやすいです。発熱、元気消失、激しい嘔吐や下痢、呼吸器や神経の異常が出ることがあります。予防接種の有無を確認してください。
代謝性疾患
肝臓病、腎臓病、糖尿病などは食欲不振を招きます。多飲多尿、体重減少、黄疸や口臭の変化があれば受診をおすすめします。
その他の原因
発熱や痛み、誤飲(異物)、中毒なども食欲低下の原因です。震えやよだれ、呼吸の乱れ、皮膚の異常が見られたら注意してください。
長期間食べないときのリスクと受診の目安
24時間以上まったく食べない、嘔吐や下痢が続く、ぐったりして動かない、血が混じる便や嘔吐物、けいれんや呼吸困難がある場合はすぐに獣医に連絡してください。子犬は低血糖や脱水になりやすく、短時間で容体が悪化します。
病院での検査と治療の流れ
獣医は視診・触診の後、血液検査、便検査、レントゲンや超音波を行います。脱水があれば点滴、感染症には抗菌薬や抗ウイルス療法、寄生虫には駆虫薬を投与します。栄養補給や経口補水の指導も受けられます。
家でできる一次対応
無理に食べさせず、清潔で暖かい場所で安静にさせてください。少量ずつぬるま湯でふやかしたフードを与え、脱水が疑われるときは獣医に相談のうえで補水を行います。薬は必ず獣医の指示に従ってください。
注意すべき症状と対処法
観察すべき主な症状
- 体重が減る、食べても戻らない
- 下痢や嘔吐が続く、血が混じる
- 排尿・排便が困難、血尿・血便
- 動くのを嫌がる、ぐったりしている
- 触られるのを嫌がる、痛がる仕草
- 普段と違う呼吸、震え、けいれん
これらは命に関わることもあるため注意深く観察してください。
自宅でできる応急処置
- 状態を記録:症状の開始時間、回数、色や量をメモします。受診時に役立ちます。
- 水分管理:嘔吐が続く場合は少量ずつの水。ぐったりしているときは無理に飲ませないでください。
- 保温:子犬は体温低下しやすいので暖かくしてあげます。
- 食事:軽い吐き戻しがある場合は数時間おいてから、消化に良い少量の食事に切り替えます。長時間絶食は避け、獣医に相談してください。
- サンプルの用意:便や嘔吐物、普段食べているフードを持参すると診断が早まります。
ただちに受診すべき緊急サイン
- 激しい嘔吐や下痢が数時間続く
- 血便・血尿がある
- 呼吸が荒い、失神やけいれんがある
- 意識がない、極端にぐったりしている
これらがあれば早急に動物病院へ連れて行ってください。
動物病院での対応例
- 視診・触診、体温・脱水の確認
- 血液検査や便検査、必要なら超音波やレントゲン
- 点滴や止血、外科処置などの治療
獣医師の指示に従い、投薬や生活管理を続けてください。
日常でできる予防と注意点
- 食事やおやつは安定させ、急な変更を避ける
- 異物を飲み込まないよう環境を整える
- ワクチンや定期検診を受ける
少しの変化も見逃さず、早めの対応を心がけましょう。