はじめに
概要
犬が餌に「飽きた」ように見える行動は、必ずしも食欲不振や病気を意味しません。完全に食べなくなるのではなく、「今は食べたくない」「違うものがいい」といった状態であることが多いです。本書では、原因の見分け方や家庭でできるチェック、対策、獣医に相談すべきサインを順に解説します。
この章の目的
本章は、読み始めの案内です。犬の行動を正しく観察するための視点と、本資料全体の流れをつかんでいただきます。焦らずに原因を探る第一歩としてお読みください。
使い方と注意点
- 日々の食事を観察し、変化があれば記録してください。具体的には食欲の有無、時間帯、食べ残しの量などです。
- 短期的な偏りは様子見でよい場合が多いですが、食欲が急に落ちる、嘔吐や下痢が続くなど体調不良がある場合は早めに相談してください。
- 本資料は一般的なガイドです。個々の症状や年齢、持病によって対応が異なりますので、疑問があれば獣医師に相談することをおすすめします。
犬が餌に飽きたように見える主な原因
1 わがまま・偏食
おやつやトッピングの味を覚えて、普段のフードを見向きもしなくなることがあります。例えば、人間の食べ物を少し与え続けると、それが基準になりフードだけでは物足りなく感じます。対策は頻繁に味付きの追加を与えないことと、報酬は食事の外で与えることです。
2 フードのニオイや鮮度の低下
開封後に時間が経ったり、高温多湿で保管すると匂いが飛んだり脂が酸化して味が落ちます。粒がべたつく、酸っぱい匂いがする場合は交換を検討してください。密閉容器で保存し、小分けで使うと鮮度を保てます。
3 環境変化・ストレス
引っ越し、来客、家族構成の変化、運動不足、食事場所の騒音などで食欲が落ちます。普段と違う時間帯や落ち着かない場所で食べにくくなることがあります。静かな場所で決まった時間に与え、散歩で適度に運動させると改善しやすいです。
4 体調不良
口の痛み、歯のトラブル、胃腸の不調、内臓の病気があると「食べるとつらい」ため拒食に見えます。よだれ、口を触られるのを嫌がる、吐く、下痢、元気がないなどがあれば早めに獣医に相談してください。
「飽きた」時にまずチェックしたいこと
まずは愛犬の体調を観察しましょう
・元気があるか、歩き方や遊びたがる様子を確認します。ぐったりしている、動きが鈍い、食欲だけでなく普段の様子が変なら早めに受診してください。
・排泄の状態をチェックします。下痢や嘔吐が続く、血が混じる、トイレの回数が極端に増減する場合は注意が必要です。
・体重変化を見ます。急に痩せた、あるいは短期間で太った場合は理由を調べます。
フードそのものの確認ポイント
・賞味期限と開封日を確認します。賞味期限切れや、開封から長時間たっている場合は匂いや見た目(カビ、色つや)をチェックし、怪しいときは与えないでください。
・保存方法を見直します。高温多湿や直射日光を避け、密閉容器で保管します。袋のままでも、袋ごと容器に入れておくと成分表示や開封日を残せて便利です。
おやつや人間の食べ物の与え方を見直す
・おやつやテーブルフードを与えすぎていないか確認します。主食よりおいしい物を学習するとフードを拒否しやすくなります。
・おやつは一日の総カロリーの目安を守り、訓練用は小さめにします。人間の味付け食は与えないでください。
上の点をチェックしても改善しない場合は、次章の対策を試すか獣医に相談してください。
対策のポイント
食事時間を決める(時間制限方式)
- 毎回の食事時間を決め、出してから15〜20分で食べなければ下げます。ダラダラ置かないことで「食事=決まった時間に食べるもの」と認識させます。
- 具体例:朝7時・夜6時に出して、20分後に片づける。食べなくても叱らず静かに下げます。
おやつは最小限にし、ご褒美に切り替える
- おやつの量を減らして、フードを食べたら少しだけおやつをあげる方式にします。これでフードの価値を高められます。
- 例えば一日の間食をフードの1割以内に抑え、トレーニング時のご褒美に限定します。
同じフードを軸に工夫して食べやすくする
- ぬるま湯をかけて香りを立てる:少量のぬるま湯(スープ状にしない)で香りが立ち、食欲を促します。
- ふやかす:小粒で硬い場合はぬるま湯で1〜3分ふやかすと柔らかくなり、食べやすくなります。
- トッピングは少量にする:例えば茹でた鶏胸肉の小さな一口分や無塩のスープを少量だけ。トッピングが多いとフードを残す原因になります。
年齢や体調に合わせたフード選び
- シニア犬や歯・胃腸が弱い子は、消化しやすく柔らかめのフードやシニア用に切り替えるとよいでしょう。粒の大きさや硬さを確認してください。
- 新しいフードに切り替える際は、数日〜1週間かけて徐々に混ぜる方法で様子を見ます。
実践のポイントと注意点
- 変化は少しずつ行い、急に変えないでください。急変は食欲不振や下痢の原因になります。
- 体重や便の状態を日々チェックして、食べる量が減ったまま続く場合は獣医師に相談を検討してください。
- 無理に食べさせようとせず、楽しい雰囲気で食事の時間を作ることが大切です。
受診を考えた方がよいサイン
警戒すべき主なサイン
- 1日以上まったく食べない(子犬・老犬は半日でも要注意)。
- 元気がなく、ぐったりしている。遊ばない・立ち上がれないなど。
- 嘔吐や下痢を繰り返す、血が混じる。
- 急な体重減少やお腹がはって痛がる仕草がある。
- 食べ物に口をつけるが吐いてしまう、飲水量が極端に増える/減る。
子犬・老犬は特に注意
子犬は体力が少ないため短時間で命に関わることがあります。老犬も基礎疾患を抱えやすく、半日~1日で状況が悪化することがあります。早めに受診してください。
受診前に確認しておくこと(獣医に伝えると診断が速くなります)
- 食べたものと時間、量。新しいフードやおやつの有無。
- 嘔吐・下痢の回数と内容(血や異物の有無)。
- 元気・飲水・排泄の様子、最近の体重変化。
- 家で測れる体温や普段と違う行動。写真や動画があると有益です。
受診時に持っていくと役立つもの
- いつも食べているフードや、その成分表示の写真。
- 嘔吐物や便の写真、可能ならサンプル。
- お薬手帳・ワクチン歴・普段の体重や既往歴のメモ。
緊急で受診すべきサイン(すぐ病院へ)
- 意識がない、倒れている、呼吸が苦しそう。
- 出血が止まらない、血の混じる嘔吐・下痢。
- 激しい痛が続く、けいれん発作がある。
「飽きた」と決めつけず、体調・環境・食べさせ方を一つずつ確認し、上のサインがあれば速やかに受診してください。