はじめに
目的
老犬の腎臓病で食欲が落ちたとき、飼い主さんがまず目指すのは「無理に療法食だけを押し付けない」ことと「脱水を防ぐ」ことです。食べる量は減っても、水分を取ることや少しでも口にすることが体の負担を軽くします。
なぜ大切か
腎臓は体の老廃物を外に出す役割を担っています。食べられず水分が不足すると、腎臓にさらに負担がかかり、症状が悪化しがちです。したがって、食事の方法を工夫しつつ、獣医さんと相談して安全に対応することが重要です。
この章で伝えたいこと
- 療法食は重要ですが、まずは脱水を防ぎ、何かを口にさせることを優先してください。
- 症状や好みに応じて、食べやすい工夫を獣医さんと相談しながら行いましょう。
- 次章以降で、具体的な工夫や注意点について詳しく説明します。
腎臓病の老犬の基本方針
基本方針
腎臓病の老犬には、腎臓に負担をかけないことを最優先に考えます。具体的には、たんぱく質・リン・ナトリウムを控えた専用の療法食（腎臓サポート食）を基本にします。継続して与えることで腎機能の進行を遅らせる効果を期待します。
食事の原則
- たんぱく質は質を重視し、量を抑えます（例：良質なたんぱく質を少量）。
- リンを減らすために、療法食やリン吸着剤を使う場合があります。
- 塩分は控えてむくみや高血圧を防ぎます。
ただし、重度の食欲不振や急な体重減少がある場合は、一時的に食べられるものを優先します。好きな缶詰や温めたフード、獣医が提案する高カロリーの流動食を使い、回復を待って療法食に戻すことが多いです。
水分管理
腎臓病では脱水が進みやすいので、新鮮な水をいつでも飲めるようにします。飲水量が少ないと感じたら、フードにぬるま湯を混ぜる、スープ状にするなど工夫します。
投薬・通院の基本
定期的に血液検査や尿検査を行い、腎機能や電解質を確認します。薬や点滴が必要な場合は獣医の指示に従ってください。
日常のケア
体重や排尿回数、元気さを日々チェックします。小さな変化も記録して、獣医に伝えやすくしておきます。
家族の心構え
療法食は急に嫌がることがありますが、根気よく続けることが大切です。食べないときは無理強いせず、獣医と相談して一時的措置を取ってください。
食べないときの工夫
匂いを工夫する
療法食は香りが弱くなることがあります。ぬるま湯でふやかすと香りが立ちやすく、食欲を刺激します。小さくほぐすと嗅ぎやすくなります。市販の犬用スープや香るトッピングを少量使うと喜ぶことがあります。
柔らかさ・温度を調整する
缶詰やドライをぬるめに温めると柔らかくなり食べやすくなります。レンジで短時間（数秒）温めて人肌程度にすると匂いが強くなるため試してみてください。熱くならないよう必ず温度を確認します。
食べやすい形状にする
ウェットタイプやペースト状に切り替えると口の動きが弱い老犬でも食べやすくなります。ブレンダーで軽く潰すか、ドライをふやかして滑らかにすると飲み込みやすくなります。
少量をこまめに与える
一度に多く出すと残すことがあります。少量を1回ずつ出して様子を見ながら与えると完食しやすくなります。朝晩だけでなく回数を増やすと胃にも優しいです。
食べやすい姿勢と環境
食器の高さを調整して首や腰に負担がかからないようにします。静かな場所で落ち着いて食べられるとよく食べます。食器の深さや形を変えると口に取りやすくなります。
注意点
塩分や調味料は与えないでください。好きな匂いを足すときも獣医の指示に従い量を控えめにします。食欲不振が続く場合は早めに獣医に相談してください。
トッピング・手作りを使う場合
基本の考え方
療法食だけで食べないときは、まずかかりつけ獣医師に相談して許可を得ます。目的は「食欲を引き出すこと」と「腎臓への負担を増やさないこと」です。急に多種類を与えず、少量から試してください。
缶詰やだし汁の使い方
腎臓病用の缶詰や専用だしを使うと香りで食欲が上がります。温めると香りが強くなり、ふやかしたドライに少量ずつかけると良いです。だしは無塩の鶏ガラや白身魚の煮汁を薄め、脂を取り除いて使ってください。市販のブイヨンや調味料は塩分や添加物が多いため避けます。
手作り食の注意点
手作りはたんぱく質・リン・塩分量が簡単に高くなります。レシピは獣医師か動物栄養の専門家に確認してもらってください。例として使いやすい材料は、皮を取った鶏むね肉（茹でて骨除去）、白米やかぼちゃなど消化の良い炭水化物、茹でたさやいんげんなどです。卵黄や内臓肉、乳製品はリンが高いことがあるので量を管理します。
市販の総合栄養食・人間用食品の扱い
ラベルに「総合栄養食」とある犬用は種類によります。人間用食品や加工品は塩分・脂肪・リンが多いため、自己判断で多量に与えないでください。おやつやごほうびは規定量を守り、間食で一日のカロリーが増えないようにします。
導入方法と記録
新しいトッピングや手作りは少量から1〜3日かけて様子を見ます。食べた量・下痢・嘔吐・元気の変化を記録して獣医師に伝えると適切な調整ができます。
獣医師に相談するときのポイント
与えたものの写真、重さやカロリーの目安、現在の療法食の名称と量、最近の体重と血液検査の結果を用意すると相談がスムーズです。
すぐ受診・相談が必要なサイン
緊急性の高いサイン（すぐ病院へ）
- 24時間以上ほとんど食べない・まったく水を飲まない
- ぐったりして反応が鈍い、立てない・意識消失やけいれん
- 繰り返す激しい嘔吐や血の混じった嘔吐、血便や真っ黒い便
- 呼吸が荒い・青っぽい歯ぐきや舌（酸素不足の可能性）
早めに連絡したほうがよいサイン（当日受診を検討）
- 嘔吐や下痢が12〜24時間続く
- 口の中が粘つく・湿り気がない、急に口臭が強くなる
- 急激に食欲や元気が落ちた
- 排尿ができない・血尿や頻尿
家での応急処置と準備
- 無理に食べさせず、水は少しずつ与える（自ら飲めない場合は獣医に相談）
- 吐瀉物や下痢のサンプル、飲んだ薬や食べたものの記録を用意する
- 体温、呼吸、歯ぐきの色、元気の度合いをメモする
受診時に伝えると役立つこと
- 症状の開始時刻と経過、既往症や投薬、最近の食事や誤飲の心当たり
- 普段の食欲・水飲み量・排尿・排便の様子
急を要する症状は早めに動物病院へ連絡し、指示に従ってください。
獣医さんに聞くときに伝えるとよいこと
まず伝える基本情報
- 年齢と体重（正確に）：例「13歳、体重6.2kg」
- 最終来院日と検査日
検査結果は具体的に
- クレアチニン、BUN（尿素窒素）、SDMAなどの数値と採血日を伝えます。例：「先週のクレアチニン1.8 mg/dL、BUN 38 mg/dL」
食事・嗜好・サプリ
- 現在のフード名（療法食か一般食）、おやつ、与えているサプリの名前と量。
- 食べなくなった時期や量の変化を具体的に伝えます。例：「3日前から半分しか食べない」
水分・排泄・消化の変化
- 飲水量や回数、尿の量や回数の増減、色の変化。
- 嘔吐・下痢の有無、回数、内容（血が混じる等）。
投薬・治療の履歴
- 現在の薬名・投薬量、皮下輸液をしているか、過去の副作用や効果。
相談するとよい具体的な質問例
- 「この数値で今すぐ療法食に切り替えたほうがよいですか？」
- 「QOL（生活の質）を優先する場合の選択肢は？」
- 「自宅でできる工夫（トッピング、皮下輸液の頻度、吐き気止めなど）は？」
伝え方のコツ
- 記録（検査結果や写真、フードのラベル）を持参すると話が早く進みます。
- 症状の開始日時や変化を日付で伝えると診断に役立ちます。
病気の進行度によって最善策が変わります。獣医さんと数字と日々の様子を合わせて相談してください。