はじめに
大切な前提
犬に貧血が疑われるときは、まず動物病院で原因を調べ、適切な治療を受けることが最優先です。見た目だけで判断せず、獣医師による血液検査や診察で原因(出血、溶血、骨髄の問題、慢性疾患など)を明らかにしてください。
食事の位置づけ
食事は治療の補助として役立ちます。たとえば、治療後の回復期に栄養を整えることで体力を保てます。ただし、食事だけで貧血を治そうとせず、治療計画に沿って調整してください。
この章で伝えたいこと
本書では、貧血の治療を受けながら家庭でできる食事の工夫をわかりやすく紹介します。まずは獣医師の診断と治療を優先し、食事やサプリは獣医師と相談して取り入れてください。次章からは具体的な栄養素や食材、注意点を丁寧に解説します。
基本の考え方
1) 貧血の原因を見分ける
貧血は原因によって対処法が変わります。外からの出血(ケガや寄生虫)、体内での破壊(溶血)、栄養不足(鉄やタンパク質)が主な原因です。まずは獣医で血液検査や便検査を受け、原因を特定しましょう。
2) 食事での基本方針
急に手作り食に切り替えるより、総合栄養食(ドッグフードなど)を基本にして、栄養を補うトッピングを行うのが安全です。必要な栄養素を補いつつ、偏りを防げます。サプリは獣医の指示に従って使いましょう。
3) 給餌の進め方
食欲が落ちているときは少量を回数多めに与え、徐々に量を戻します。体重や排便を観察しながら調整してください。過剰給餌で体重が増えると負担になります。
4) 食材の扱い方の注意点
鉄を多く含む食材(レバーなど)は有効ですが、与えすぎると別の健康問題になります。ビタミンCは鉄の吸収を助けますが、人用の薬やサプリは犬に合わないことがあるので慎重に。
5) 獣医との連携を優先する
食事でできることは限られます。定期的な血液検査で経過を確認し、必要なら薬や治療を受けてください。食事の変更は獣医と相談して進めましょう。
貧血時に意識したい栄養素
鉄(Fe)
鉄は赤血球の材料です。吸収しやすい「ヘム鉄」はレバー、赤身肉、赤身魚に多く含まれます。一方、ほうれん草や豆類に含まれる「非ヘム鉄」は吸収が穏やかです。食べ合わせで差が出るため、鉄を意識するならヘム鉄中心に、植物性はビタミンCと一緒に摂ると良いです。
ビタミンB12
ビタミンB12は赤血球の正常な生成を助けます。レバー、魚、卵、乳製品に多く含まれます。植物にはほとんど含まれないため、菜食中心の方は医師と相談のうえサプリを検討してください。
葉酸(ビタミンB9)
葉酸は細胞分裂を助け、赤血球のもとになります。緑黄色野菜、枝豆、アボカド、レバーなどが良い供給源です。
良質なたんぱく質
血液や体の組織を作る基礎です。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品をバランスよく取り入れてください。
ビタミンCと吸収の工夫
鉄の吸収を高めるために、レモンやいちご、ピーマンなどのビタミンCを食事に加えましょう。たとえば、肉料理に彩り野菜や柑橘のドレッシングを添えると効果的です。
注意点
カルシウムやお茶・コーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げます。食後すぐの摂取は控えると良いです。
具体的なおすすめ食材例
普段のフードに少量トッピングするだけで、貧血対策になります。ここでは手に入りやすく使いやすい食材と与え方を具体的に説明します。
レバー(鉄分が豊富)
- 豚・鶏・牛のレバーは鉄とビタミンが多いです。よく火を通してから与えます。香辛料や塩は使わないでください。
- 量の目安:小型犬は小さじ1〜2、成犬は大さじ1〜2程度を週1〜2回までにします。与えすぎるとビタミンA過剰になるので注意します。
赤身肉(消化しやすい鉄源)
- 牛・鶏の赤身、七面鳥などを選び、茹でるか蒸して脂を落とします。焼きすぎて硬くならないようにします。
- 量の目安:小型犬は1回10〜20g、成犬は30〜50gを目安に、週に数回取り入れます。
卵黄(栄養バランスを補助)
- 卵はよく加熱してから与えます(生は避ける)。卵黄に鉄や良質な脂が含まれます。
- 量の目安:小型犬は半分から、成犬は1個分を週に数回までにします。
野菜(食物繊維と補助栄養)
- にんじん、かぼちゃ、さつまいも、ブロッコリー、ピーマンなどがおすすめです。柔らかく茹でて細かく刻むかペーストにします。
- 量の目安:全体の5〜20%程度を目安に少しずつ混ぜてください。味付けや塩は不要です。
与え方のポイント
- まずはごく少量から始め、食欲や便の状態を確認します。アレルギーや消化不良が出たら中止します。
- 食材は必ず人間用の調味料を使わず、よく加熱して与えます。玉ねぎ、にんにく、ネギ類は犬に有害なので絶対に使わないでください。
これらを普段のフードに少量トッピングして、バランスよく続けるとよいです。
市販フード・サプリを使う場合
選び方
- 総合栄養食で「シニア用」「貧血・造血サポート」「鉄・ビタミンB群強化」と明記された製品を優先してください。必要な栄養素をバランスよく含みます。
- ラベルで鉄・ビタミンB12・葉酸・銅の有無を確認します。動物用に作られた表示のあるものを選んでください。
与え方の注意
- 表示どおりの量を守り、急に多量に与えないでください。過剰な鉄や脂溶性ビタミンは負担になります。
- 人用サプリは成分や用量が異なり危険な場合があるため、獣医師の許可がない限り与えないでください。
獣医師に相談するポイント
- 既往の腎臓・肝臓疾患があるか、飲んでいる薬との相互作用の有無を確認してください。
- 血液検査の結果を基に、適切な製品と投与量を指示してもらいましょう。
日常の観察ポイント
- 食欲、元気、歯茎の色、便の状態を毎日チェックしてください。変化があれば速やかに獣医師に相談しましょう。
市販のフードやサプリは便利ですが、個体差があります。獣医師と相談しながら安全に使ってください。
注意したいポイント
貧血を予防・改善するために、食事や生活で特に気をつけたい点をわかりやすくまとめます。
絶対に与えてはいけない食材
- 玉ねぎ、長ねぎ、にら、にんにくなどは赤血球を壊す成分を含みます。少量でも危険なので絶対に与えないでください。
手作り食の注意点
- 手作りにすると栄養バランスが崩れやすく、貧血やほかの病気が悪化することがあります。レシピや補助食品は獣医師や栄養の専門家に確認してもらってください。
市販品・サプリの扱い
- 市販フードでも成分表示を確認し、過剰な鉄やビタミンが入っていないか注意します。サプリは勝手に追加せず、獣医師の指示に従ってください。
すぐに受診が必要な症状
- 元気がない、歯ぐきや舌が白い、すぐに疲れる、呼吸が速い場合は速やかに受診してください。これらは重度の貧血や別の病気のサインです。
日常の注意点
- 食事は急に変えず、数日かけて切り替えます。調理や保存は衛生に気をつけ、腐敗したものは与えないでください。定期的に獣医師の診察や血液検査を受け、状態を確認しましょう。