目次
はじめに
この章では本資料の目的と読み方、対象をやさしく説明します。
本書の目的
本資料は、犬に必要な栄養素を分かりやすくまとめたガイドです。たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの役割や与え方の基本を、ドッグフード選びや手作り食の参考になるように解説します。
対象読者
犬を飼っている方、これから飼う予定の方、ペット関連のお仕事をする方が対象です。専門知識がなくても読みやすい内容にしています。
読み方のポイント
・章ごとに一つの栄養素を扱います。実例や注意点を交えて説明します。
・ライフステージ(子犬・成犬・高齢犬)ごとの注意点も取り上げます。
・具体的な割合や量は個犬差があるため、かかりつけの獣医師と相談してください。
この先の章で、各栄養素の役割と実際の与え方を丁寧に解説します。
犬に必要な栄養素の基本:「6大栄養素」と「5大栄養素」
6大栄養素とは
犬が生きるために必要な基本は「水、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル」の6つです。水は体温調節や消化に不可欠で、毎日新鮮な水を用意してください。たんぱく質は筋肉や内臓の材料、脂質はエネルギーと皮膚・被毛の健康に役立ちます。炭水化物は素早いエネルギー源になり、ビタミンとミネラルは体の調整役です。
ペットフードでよく使われる「5大栄養素」
日常のペットフードや手作りごはんの説明では、水を除いた「たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル」の5つが使われます。これは給餌の際に「何をどれだけ与えるか」を決めやすくするためです。ラベルにはたんぱく質や脂質の割合が表示されていますので、年齢や活動量に合わせて選びます。
エネルギー源と補助因子の分け方
栄養は大きく分けて、エネルギー源(たんぱく質・脂質・炭水化物)と代謝を助ける補助因子(ビタミン・ミネラル)に分かれます。成長期や運動量が多い犬はエネルギーが多く必要です。一方で、補助因子は少量でも重要です。
実用ポイント
市販フードはバランスを考えて作られています。手作りにする場合は獣医師や栄養士に相談してください。急な切り替えは消化不良の原因になるので、徐々に慣らすことをおすすめします。
たんぱく質:体の「もと」になる栄養
1. たんぱく質の役割
たんぱく質は筋肉、内臓、皮膚、被毛、血液などの組織を作る基礎です。傷の回復や免疫、酵素やホルモンの材料にもなります。日々の修復と成長に欠かせません。
2. 必要量の目安
成犬ではドッグフードの乾物(ドライフードの水分を除いた部分)中で約18%以上を目安にします。子犬や成長期は22〜22.5%以上が望ましいです。体重、年齢、運動量によって増減しますので、獣医師と相談してください。
3. 良質なたんぱく質の例
動物性たんぱく質が吸収とアミノ酸バランスに優れます。鶏肉、牛肉、魚、レバー、卵などが代表例です。市販の総合栄養食はこれらをバランスよく配合しています。
4. 必須アミノ酸と食事
犬は体内で作れない必須アミノ酸を食事から補う必要があります。良質なたんぱく源を中心に与えることで、まんべんなく補給できます。単一の素材だけで長期間与えるのは避けます。
5. 与え方の注意点
生肉は細菌や寄生虫のリスクがあり、必ず信用できる処理を行うか加熱してください。内臓は栄養が濃い反面与えすぎに注意します。市販フードを基準にして、手作り食にする場合は栄養バランスを確認してください。
6. 年齢や健康状態に応じた調整
高齢犬は消化吸収力が落ちるため、消化しやすい良質なたんぱく源を選びます。活動的な犬や繁殖犬はたんぱく質の割合を高めに設定することが多いです。獣医師と相談して最適量を決めてください。
脂質:エネルギー源と皮膚・被毛の健康に欠かせない
脂質の役割
脂質はたんぱく質や炭水化物より多くのエネルギーを供給します。皮膚や被毛のうるおいを保ち、脳や神経の働きを支えます。脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収も助けます。
主な種類とそのはたらき
- 中性脂肪(エネルギー源): 肉や油に多く含まれ、効率よくエネルギーを供給します。例:鶏脂、家禽油。
- 必須脂肪酸(オメガ3・オメガ6): 体内で作れないため食事で補います。オメガ6は皮膚・被毛の健康、オメガ3(DHA・EPA)は炎症を抑え、アレルギー対策や脳の働きを助けます。例:魚油(DHA・EPA)、亜麻仁油(α-リノレン酸)。
必要量とドッグフードの目安
成犬用ドッグフードでは乾物中でおおむね5〜10%が一般的です。運動量の多い犬や妊娠・授乳期は増やすことがあります。仔犬や高齢犬では種類や量を獣医と相談してください。
摂り方のポイントと注意点
- 良質な脂肪源を選ぶ:魚油や高品質の動物脂肪が望ましい。加工が進んだ脂は避ける。
- バランスに注意:オメガ6とオメガ3のバランスが大切です。極端に偏ると炎症を招くことがあります。目安としてフード設計ではオメガ6過多にならないよう配慮されています。
- 過剰と不足のサイン:不足は乾燥した肌やツヤのない被毛、回復の遅れ。過剰は体重増加や下痢、脂質過多による膵炎リスクが高まります。
- サプリメントは獣医と相談:特にDHA・EPAを補う場合は与え方と量を確認してください。
炭水化物:エネルギー源としての役割
炭水化物の基本
炭水化物は犬にとって主にエネルギーのもとになります。人ほど大量に必要としませんが、適量を取ると日常の活動や運動に役立ちます。簡単に言えば“動くためのガソリン”です。
主な供給源
米、小麦、トウモロコシなどの穀物、じゃがいも・さつまいもなどのイモ類、野菜や果物が代表です。フードの原材料表示を見れば、どの炭水化物が使われているか分かります。
犬の体での使われ方
炭水化物は消化されてブドウ糖になり、筋肉や脳のエネルギーになります。運動量の多い犬や成長期の子犬には役立ちます。逆に運動量が少ない成犬には量を調整します。
食物繊維のメリット
野菜やイモに含まれる繊維は腸の調子を整えます。便通を良くしたり、満腹感を得やすくする効果があります。
与え方のポイント
フード全体のバランスを重視し、炭水化物だけを増やさないようにします。原材料と成分表示を確認し、愛犬の年齢・活動量に合わせて選びます。
注意点
穀物アレルギーが疑われる場合は獣医に相談し、グレインフリー製品を検討します。過剰摂取は肥満や体調不良の原因になるため、適量を守ってください。
ビタミン:代謝を助ける「補助エンジン」
ビタミンとは
ビタミンは少量で体の化学反応を助ける栄養です。代謝をスムーズにし、成長や免疫、皮膚・被毛の健康を支えます。
脂溶性ビタミン(A・D・E・K)
- ビタミンA:視覚や粘膜、免疫に関わります。レバーや緑黄色野菜(βカロテン)に多く含まれます。
- ビタミンD:骨や歯の形成を助けます。日光で合成され、魚類や強化食品にも含まれます。
- ビタミンE:抗酸化作用で細胞を守り、皮膚・被毛を健康に保ちます。植物油や穀物が供給源です。
- ビタミンK:血液の凝固に関わります。緑葉野菜や腸内細菌での合成もあります。
水溶性ビタミン(B群・C)
- B群:エネルギー代謝や皮膚・被毛の健康に重要です。肉類、内臓、穀物、酵母などに含まれます。
- ビタミンC:犬は体内で合成できますが、ストレスや病気で消耗するため補給が役立つ場合があります。
不足・過剰の注意点
一部は不足で元気がなくなったり皮膚トラブルが起きます。過剰だと中毒やカルシウム異常など深刻な問題を招くことがあります。特に脂溶性は蓄積しやすいので注意してください。
与え方のポイント
市販の総合栄養食はビタミンバランスを考えて作られています。特別なサプリは獣医と相談して使い、レバーやサプリの過剰摂取は避けてください。日光やバランスの取れた食材で自然に補うことが基本です。
ミネラル:体の「かぎ」になる微量栄養素
ミネラルとは
ミネラルは骨や歯、血液、筋肉、神経の働きに欠かせない微量の栄養素です。ドッグフードの成分表では「灰分」としてまとめて表示されることが多く、個々の種類が大切な役割を果たします。
主要なミネラルと役割(簡単な説明と例)
- カルシウム(骨・歯の形成): 乳製品や骨由来の原料に多い。子犬は特に必要量が多いです。
- リン(骨と連携): 肉や魚に含まれる。カルシウムとのバランスが重要です。
- カリウム(細胞の働き): 野菜や肉に含まれ、筋肉や神経の働きを助けます。
- ナトリウム(体液の調節): 塩分の形で摂りますが、過剰はよくありません。
- マグネシウム(酵素のサポート): 全身の代謝に関わります。
- 鉄(酸素運搬): 赤い血をつくり、疲れにくくします。肉類が良い供給源です。
- 銅(鉄の利用や神経): 鉄の代謝を助けます。
不足や過剰で見られる症状
- カルシウム不足: 成長不良、骨折しやすさ。
- 鉄不足: 貧血、元気がない。
- マグネシウム過剰: 消化不良や排泄問題になることがあります。
与えるときの注意点
- バランスが大切です。特にカルシウムとリンの比率は成長期で注意してください。
- 市販の総合栄養食は必要なミネラル配合を考えて作られています。手作り食や特別な療法食を与える場合は獣医師に相談してください。
- サプリメントは獣医師の指示がある時だけ使い、自己判断で重ねないでください。
ラベルの見方ワンポイント
成分表にある「灰分」の数値は全体のミネラル量の目安です。個別のミネラル配合はパッケージやメーカー情報で確認しましょう。