目次
はじめに
子犬が下痢をすると、飼い主さんはとても不安になると思います。本書は、獣医師監修の知見をもとに、子犬の下痢に対する食事の対処法や受診の目安をやさしく整理したものです。
子犬は体が小さく、脱水や体力低下が急速に進みやすいため、成犬と同じ対応をしてはいけません。本章ではまず、なぜ子犬の下痢が特に注意を要するのか、この記事で扱う主要なテーマをわかりやすく説明します。
本記事で扱う主な内容:
- 子犬の下痢が成犬と異なる理由
- 家庭でまず確認すべきポイント
- すぐに動物病院を受診すべき危険サイン
- 絶食の可否やおすすめの食事内容
- 水分補給の大切さと具体的な方法
この先の章で、実際に役立つ判断基準や具体的な給餌方法を順を追って説明します。初めての方でも実践しやすいように、専門用語はできるだけ避け、具体例を交えて丁寧に解説していきます。
子犬の下痢は「成犬と同じ扱いをしてはいけない」
子犬の下痢は、成犬のそれと同じ扱いをしてはいけません。体が小さく体力や水分の余裕が少ないため、短時間で状態が悪化します。
脱水しやすい
子犬は体重に対する水分の割合が高く、少量の下痢でも急に脱水に陥ります。例えば、体重が数キロの子犬では数回の下痢や嘔吐で元気がなくなることがあります。水を飲まない・口の中が乾いている・皮膚をつまんで戻りが遅い場合は注意です。
低血糖になりやすい
子犬はエネルギーの貯えが少ないため、食事を取れない時間が続くと低血糖でふらついたり、ぐったりしたりします。震えや異常に眠そうな様子があれば早めに受診してください。
免疫が未熟で感染症リスクが高い
子犬は免疫力が未熟なため、パルボウイルスなどの重い感染症にかかるリスクが高いです。血便や高熱、激しい嘔吐があればすぐに動物病院を受診してください。
成犬向けの絶食は危険
成犬では半日〜1日程度の絶食で胃腸を休めることがありますが、子犬に同じ対処を自己判断で当てはめないでください。短時間の絶食でも低血糖や体力低下を招く恐れがあります。
次章で詳しく確認すべきポイントを挙げますが、まずは子犬の様子をよく観察し、元気や水分摂取に不安がある場合は早めに獣医に相談してください。
子犬が下痢をしたら、まず確認するポイント
はじめに
まずいきなり食事を変える前に、状態を落ち着いて観察しましょう。短時間の対応で済む場合もあります。
便のチェック(色・粘度・混入物)
・色:普通は茶色。黄色や緑は消化不良やウイルス、黒っぽいタール状は消化管の上部からの出血の可能性があります。鮮血(赤)は下部の出血を示すことがあります。
・粘度:水っぽいか粘性か。粘液が多いと腸の炎症を示します。
・混入物:未消化の食べ物、寄生虫のような白い粒、異物がないか確認します。
回数と経過
・一度きりで元気なら24時間ほど様子を見てもよいことが多いです。
・短時間で何度も繰り返す、または数時間〜1日以上続く場合は受診を検討してください。
子犬の様子(命にかかわるサインを見逃さない)
・元気や食欲があるか。水を飲めているか。吐いていないか。
・ぐったりしている、震える、呼吸が速い・浅い場合は危険です。
・脱水の簡単な確認方法:唇や歯茎が乾いていないか、肩の皮膚を軽くつまんで戻りが遅ければ脱水の疑いがあります。
記録と受診時の準備
・便の写真を撮る、もしくは少量を清潔な容器に入れて持参すると診察がスムーズになります。
・いつから、何を食べたか、他の動物と接触したか、ワクチン・駆虫歴を書き留めておくと役立ちます。
すぐに動物病院を受診すべき場合(目安)
・血便、黒い便、激しい嘔吐、まったく水を飲まない、意識が低い、急速に悪化していると感じたとき。
・特に生後間もない子犬は早めに受診してください。
危険サイン – すぐに動物病院を受診すべき状態
はじめに
子犬の下痢は自宅で様子を見ることもありますが、見逃すと危険な場合があります。ここでは、すぐに受診したほうがよい具体的なサインと理由、受診時のポイントをわかりやすく説明します。
すぐ受診が必要なサイン
- 元気がない・ぐったりしている
- ぐったりして動かず、反応が鈍いときはショックや脱水が進行している可能性があります。
- 食欲がない
- ごく短時間で全く食べない場合は体力低下のサインです。
- 下痢と嘔吐が同時に出ている
- 同時に続くと脱水が速く進みます。自宅対応だけでは危険です。
- 血便やゼリー状の粘液便
- 腸の重い炎症や出血を示します。早めの検査が必要です。
- 水を飲んでも吐く、または水様便が続く
- 水分が補給できないと脱水が急速に悪化します。
- 子犬が非常に幼い・体が小さい
- 体力が少ないため少しの下痢でも危険度が高まります。
- ワクチン未接種で激しい下痢・嘔吐
- 犬パルボウイルスなど致命的な感染症の可能性があります。
犬パルボウイルスの可能性について
ワクチン未接種または接種が不十分な子犬で、激しい下痢(血便を伴うことが多い)や嘔吐、ぐったりがあれば緊急性が高いです。早期の診断と点滴などの処置で命を救えることが多いので、すぐに動物病院へ連れて行ってください。
受診時の持ち物と伝えるべきこと
- 便のサンプル(可能なら)
- 下痢・嘔吐の開始時刻、頻度、便の色や形(血の有無)
- 年齢、体重、ワクチン接種の有無、既往歴
- 家で与えた食事や薬の情報
これらを伝えると診断がスムーズになります。
子犬の下痢と食事 – 絶食していいのか?
子犬に絶食は原則しない
成犬では軽度の下痢に短時間の絶食(8〜12時間)で腸を休ませる方法があります。子犬は体力が少なく、低血糖になりやすいため、飼い主の判断で絶食するのは危険です。特に生後間もない子犬や極小種は要注意です。
獣医師に相談する理由
下痢の原因は多岐にわたり、脱水や低血糖、感染症の可能性もあります。まずは獣医師に相談して、絶食が必要かどうか確認してください。緊急性が高い場合はすぐ受診します。
食欲があるときの与え方(具体的手順)
- いつもの子犬用フードをぬるま湯でふやかす(軟らかくして消化を助けます)。
- 1回量をいつもの半分〜3分の1に減らす。回数を増やし、少量を頻回(例えば2〜3時間おき)に与える。
- ドカ食いを避ける。量を守れないと吐いたり下痢が悪化します。
- 油分やおやつは控える。消化に負担がかかります。
食べない・症状が悪化する場合
食欲がない、ぐったりしている、嘔吐や血便が出る場合は絶食に頼らず早めに獣医師へ。水分補給を優先し、低血糖や脱水の兆候を見逃さないでください。
下痢のときにおすすめされる食事内容
基本の考え方
下痢のときは消化に負担をかけないことが第一です。まずは普段の子犬用フードをぬるま湯でふやかして、少量ずつ与える方法が安全で確実です。
おすすめの食べ物(具体例)
- ふやかしたドライフード(いつもの子犬用フード): ぬるま湯で柔らかくし、通常量の半分以下から始めます。回数を分けて与えます。
- 療法食・胃腸ケア用フード: 獣医師の指示があれば、消化に配慮した療法食が有効です。急に切り替えず相談してください。
- おかゆ状のフード: 白米を多めの水で炊いたおかゆに、獣医師が許可した具(脂肪の少ない茹で鶏ささみなど)を少量混ぜます。塩や油、調味料は使わないでください。
- 高たんぱく・低脂肪食材: 茹でた鶏ささみ、蒸し白身魚、卵の白身などを少量。脂肪が少ないものを選びます。
- 補助食品: 獣医が勧める電解質補給や整腸剤は脱水や腸内バランス改善に役立ちます。
与え方のポイント
少量を頻回に与え、食欲や便の状態を毎回確認します。軟便が改善してから2〜3日かけて通常フードに戻すと安全です。急に量や種類を戻すと再発することがあります。
避けるべきもの
牛乳や乳製品、脂っこい食べ物、人間の調味料、加工食品、与えてはいけない食材(玉ねぎ、チョコなど)は厳禁です。
手作りについての注意
自己流で手作りに切り替えるより、まずは今のフードをふやかして少量ずつ与えるのが安全です。療法食や食材の変更は必ず獣医師と相談して行ってください。
受診の目安
少量を与えても改善しない、嘔吐や血便、元気消失、脱水が見られる場合は速やかに動物病院を受診してください。
水分補給は「食事以上に最重要」
なぜ水分が最優先か
子犬の下痢では、体重や体内の水分が急速に減ります。脱水は命にかかわるため、食事よりまず水分補給を優先してください。特に子犬は小さい分だけ影響を受けやすいです。
基本の与え方
- 常に新鮮な水を用意します。冷たすぎない常温のほうが飲みやすいです。
- 一度に大量に与えず、少量をこまめに与えます(5〜10mlずつを数分ごとが目安)。
- 浅めの器や飲みやすい水飲み器に変えると飲むことがあります。
飲まないときの工夫
- スプーンやシリンジで少しずつ口元に運んで飲ませます。無理に押し込まず、落ち着かせてから与えてください。
- 無塩の鶏スープを薄めたものや、犬用の経口補水液を使う方法があります。人用のスポーツドリンクは糖分や塩分が合わない場合があるので避けてください。しかし犬用の専用品や獣医の指示に従ってください。
観察するポイント(脱水のサイン)
- 皮膚をつまんで戻りが遅い
- 口の粘膜が乾燥している
- 尿の量が少なく色が濃い
- 元気がなくぐったりしている
受診の目安
少量ずつ与えても数時間〜半日で水を飲まない、嘔吐や強い元気消失、血便がある場合はすぐに動物病院を受診してください。脱水は早めの治療が重要です。