目次
はじめに
概要
本章では、本ドキュメントの目的と使い方をやさしく説明します。犬の1日の食事量を科学的に求める手順を、実例を交えて丁寧に解説します。主に体重・年齢・活動量に基づくエネルギー計算(RERとDER)と、それを元にした実際の給餌量の算出方法を扱います。
目的
- 飼い主が愛犬に適切な量の食事を与えられるようにする
- 計算の根拠を示し、曖昧さを減らす
- 複数回の給餌や市販フードへの応用方法を紹介する
想定読者
初めて正確に給餌量を知りたい飼い主、獣医師やトリマーから説明を受けた方、フード選びに迷っている方を想定します。専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
本ドキュメントの構成
第2章から第5章でRER(安静時エネルギー要求量)とDER(1日のエネルギー要求量)を順を追って計算します。第6章では複数回給餌の調整方法を扱い、第7章では計算ツールの活用例を示します。
注意点
個々の犬は代謝や健康状態が異なります。ここで示す値は目安です。異常がある場合は獣医師に相談してください。
犬の食事量計算の基本概念
RERとDERとは
犬の食事量を決める基本は「RER」と「DER」です。RERは安静時に必要なエネルギー量、つまり寝ているときに使うカロリーの目安です。DERは1日に実際に必要なエネルギーで、RERに活動量や年齢、避妊去勢の有無などを掛けて求めます。
計算の流れ(簡単な例)
- RERを求める(詳しい計算式は次章で扱います)。
- 犬の生活状態に合う係数を掛けてDERを求めます。
例:体重10kgの犬で、RERが約395kcalとします。成犬で一般的な係数1.6を掛けると、DERは約632kcalです。これが1日に与えるべきエネルギーの目安になります。
なぜ計算が大切か
目安だけで与えると、肥満や栄養不足につながります。正確に計算すると、体重管理や健康維持がしやすくなります。特に体重が増えすぎている時や病気のときは、数値に基づいた調整が重要です。
注意点と実用アドバイス
- 体重は実測値を使い、必要なら理想体重で再計算してください。
- 与えるフードのカロリー表示(100gあたりや1カップあたり)を確認し、体重管理用の調整を行ってください。
- 小まめに体重を測り、数週間で変化があるなら給餌量を見直します。
- 活動量や年齢、妊娠・授乳などで必要量は大きく変わります。獣医師と相談すると安心です。
ステップ1 - RER(安静時エネルギー要求量)の計算
RERとは何か
RER(Resting Energy Requirement)は、安静にしているときに必要な最低限のエネルギー量です。体温維持や内臓の働きに使われるエネルギーを示します。成犬の給餌計算はまずこのRERを求めることから始めます。
計算方法(簡易と正確)
- 簡易式:体重(kg)×30+70
- 手早く見積もるときに便利です。例:8kgの犬 → 8×30+70=310kcal
- 正確式:70×(体重の0.75乗)
- 体重変化に伴う代謝の差をより正確に反映します。例:8kgの犬 → 70×8^0.75 ≈ 333kcal(約330kcal)
どちらを使うか
簡易式は日常の目安に向きます。正確式は体重差が大きい場合や獣医師の指示があるときに使います。
参考値(正確式に基づく目安)
- 2kg:約118kcal
- 5kg:約234kcal
- 8kg:約333kcal
- 10kg:約394kcal
- 20kg:約662kcal
- 30kg:約897kcal
注意点
RERは安静時の基準値です。散歩や遊び、妊娠、病気などにより必要なエネルギーは増減します。次の章で1日の必要量(DER)の求め方を説明します。
ステップ2 - DER(1日のエネルギー要求量)の計算
基本式
DER(1日のエネルギー要求量)は、求めたRERに犬の生活スタイルを反映した「活動係数」をかけて算出します。
式:DER[kcal]=RER[kcal]×活動係数
活動係数は犬の年齢や運動量、繁殖状態で変わります。単純で分かりやすい目安を下に示します。
活動係数の目安(一般的な目安)
- 避妊・去勢済みの成犬:1.6
- 標準的な成犬(屋外で適度に活動):1.8
- 活動的・作業犬:2.0〜3.0
- 肥満傾向の成犬:1.4
- 子犬(成長期):2.0〜3.0(体重により変動)
- 妊娠・授乳期:妊娠中は約1.8〜2.0、授乳期はさらに高くなることが多い
具体例
RERが420 kcalの犬で考えます。
- 避妊済み成犬(1.6):420×1.6=672 kcal/日
- 肥満傾向(1.4):420×1.4=588 kcal/日
- 活動的(2.0):420×2.0=840 kcal/日
したがって、活動係数の選び方で必要カロリーは大きく変わります。
注意点
活動係数はあくまで目安です。体重が増える・減る場合は給餌量を見直し、獣医師と相談してください。
ステップ3 - 実際の給餌量の計算
説明
DER(1日あたりの必要エネルギー量)を、ドッグフードの「100gあたりのエネルギー量」で割り、100をかけると1日あたりの給餌量(グラム)が出ます。ラベルに記載のカロリーを使って具体的に算出します。
計算式
1日あたりの給餌量[g] = DER[kcal] ÷ 餌のエネルギー量(/100g)[kcal] × 100
例:体重4kgの犬でDERが316kcal、フードが300kcal/100gの場合
316 ÷ 300 × 100 = 105.33… → 約105g
ラベルの見方と単位の注意
- ラベルに“kcal/100g”と書かれていればそのまま使えます。
- “kcal/kg”表記の場合は、kcal/kg ÷ 10 = kcal/100gに換算してください(例:3000kcal/kg → 300kcal/100g)。
実務上のポイント
- 小数は測りやすい単位に丸めます(5gまたは10g単位が実用的)。
- おやつやトッピングがある場合は、そのカロリーを差し引いて調整します。目安としておやつの合計が1日の10〜15%以内になるよう計算すると安全です。
- 新しい給餌量に変えるときは、1〜2週間かけて少しずつ移行し、体重や体型(肋骨の触れやすさ、ウエストのくびれ)を観察してください。
- ウェットフードは水分で重さが増えるため、表示のエネルギー量で同様に計算します。粒の量だけで判断せず、必ずラベルのカロリーを用いてください。
測り方のコツ
- キッチンスケールで正確に量ります。計量カップはフードの形状で差が出るため目安に留めます。
- 日々の変化を記録すると、必要に応じた微調整がしやすくなります。
第6章: 複数回給餌への対応
分け方の基本
計算した「1日の給餌量」は、与える回数で単純に割ります。例えば1日120gなら、2回に分けると1回60g、3回なら1回40gになります。量は必ずキッチンスケールで量り、見た目で判断しないようにしてください。
回数別の目安
- 子犬や高活動の犬:1日3〜4回に分けると消化に優しく、エネルギーが安定します。
- 成犬:通常は1〜2回で問題ありません。
- 高齢犬や病気の犬:少量を頻回に与えることで吐き戻しや消化不良を防げます。
おやつと補助食の扱い
おやつやトリーツは総摂取カロリーに含めます。毎日の主食量を減らすか、おやつの分だけカロリーを差し引くように調整してください。
測り方とタイミングの工夫
食事は同じ時間帯に与えると体内リズムが整います。缶詰やウェットフードは水分が多いため見た目よりカロリーが低い場合があります。パッケージの表示を確認し、同じ方法で毎回量ると安定します。
変化が必要な場合
体重の増減や体調の変化があれば、回数や1回量を見直してください。獣医師と相談するとより安全です。
計算ツールと活用方法
使えるツールの種類
- オンライン計算機:体重・年齢・活動レベルを入力すると自動で必要カロリーや給餌量を表示します。
- スマホアプリ:体重記録や給餌履歴を管理でき、成長や体重変化をグラフで確認できます。
- スプレッドシート:自分で項目を追加して細かく管理できます。印刷して使う表も作れます。
ツールの使い方(基本の流れ)
1) 体重を正確に入力します。体重は朝の空腹時が安定しやすいです。
2) 年齢や活動レベル、避妊・去勢の有無を選びます。
3) フードのエネルギー表示(kcal/100g または kcal/kg)を入力します。
4) 給餌回数やおやつのカロリーも設定します。
例:体重10kgの成犬で1日の必要エネルギーが850kcal、フードが350kcal/100gの場合
850 ÷ (350/100) = 約243g/日
ツールはこの計算を自動で行います。
活用のコツと注意点
- 初回はツールの結果を目安にし、2〜4週間で体重と体型を見ながら調整してください。
- おやつやトリーツのカロリーも合算して管理しましょう。
- 子犬や病気のある犬、高齢犬は個別対応が必要です。異常があれば獣医師に相談してください。
- ツールの数値は推定値です。フードラベルの単位に注意し、入力ミスを防いでください。
これらを使うことで、計算が苦手な方でも簡単に適切な給餌量を把握できます。
まとめ
本書では、犬の適切な給餌量を求めるための流れをやさしく解説しました。要点を整理します。
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基本の流れ:まずRER(安静時のエネルギー)を計算し、次に個別条件で係数をかけてDER(1日の必要エネルギー)を出し、最後にペットフードのカロリーから実際の給餌量を求めます。
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個別調整の重要性:体重、年齢、避妊・去勢の有無、運動量で必要量は変わります。健康状態や季節、妊娠・授乳などでも増減します。
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実践のコツ:計量スプーンではなくデジタルスケールで正確に量ります。おやつは1日の総カロリーに含め、急な変更は避けて1〜2週間かけて調整します。体重と体型(ボディコンディション)を定期的にチェックし、変化が大きければ獣医に相談してください。
この方法を習慣にすることで、肥満や栄養不足を防ぎ、愛犬の健康維持につなげられます。数字は目安ですので、愛犬の様子を見ながら柔軟に対応しましょう。