はじめに
本書の目的
この文書は、老犬が急に食事を摂らなくなったときに、飼い主が冷静に対応できるように作りました。老化による体の変化や病気による食欲不振の違い、環境の工夫、そして最期が近いサインとの区別まで、実践的で分かりやすく解説します。
誰のための内容か
日常的に犬の世話をしている方や、最近食事量が減った高齢犬を抱える飼い主さん向けです。獣医師ではありませんが、獣医師に相談する際に役立つ情報や、すぐにできる対処法を中心にまとめています。
読み方のポイント
- 第2章で原因を整理し、第3章で「水は飲むが食べない」の特徴を詳しく説明します。
- 第4章で具体的な対処法を紹介し、第5章で最期が近づいているサインとの見分け方を述べます。
- 自宅で試す際は愛犬の様子を注意深く観察し、様子が改善しない場合は早めに獣医師に相談してください。
丁寧に読み進めていただければ、日々の対応に落ち着きと自信が生まれるはずです。
老犬が食事を拒否する主な原因
老犬が急に食事をとらなくなると心配になります。ここでは主な原因を分かりやすく整理します。
1) 身体的な老化による変化
基礎代謝や運動量が落ちると、必要なエネルギーが減り食欲が落ちます。散歩量が減り寝ている時間が増えると、食べる量も自然に少なくなります。
2) 味覚・嗅覚の衰え
においや味を感じにくくなると、食べ物への興味が薄れます。たとえば以前は喜んでいたフードの匂いに反応しなくなることがあります。
3) 嚥下（えんげ）や口の問題
飲み込みにくい、むせる、口を触られるのを嫌がる場合は、歯周病や口内炎、嚥下機能の低下が考えられます。柔らかく温めた食事が助けになることがあります。
4) 内臓やホルモンの病気
腎臓病・肝臓病・甲状腺機能低下症・副腎の病気などは食欲不振の原因になります。これらは血液検査で見つかることが多く、早めに獣医師へ相談してください。
5) 認知機能の低下
認知症（老犬性の認知障害）では食事の時間や場所を忘れたり、食べる動作が乱れたりします。ルーチンを整えると改善することがあります。
6) 好みの変化と頑固さ
年をとると味の好みが変わり、急に同じフードを拒むことがあります。匂いや食感を工夫すると受け入れる場合があります。
7) ストレスや環境の変化
引越し、家族の変化、食器の位置など小さな変化でも食欲に影響します。落ち着ける環境を整えてあげてください。
観察のポイント
体重減少、嘔吐、下痢、明らかな元気消失、発熱などがある場合は緊急性があります。長く続くときは必ず受診してください。
老犬が水は飲むのに食べない場合の特徴
状況の説明
老犬が水は飲むのに食べない状態は、水分だけは摂れているため一見落ち着いて見えますが、注意が必要です。口や胃腸の不調で食事そのものを避けていることが多く、放置すると栄養不足や衰弱につながります。
考えられる主な原因（具体例で説明）
- 口の痛み：歯周病や抜けた歯、口内炎があると咀嚼（そしゃく）がつらくなります。例えば硬いドライフードを見ただけで背を向けることがあります。
- 嚥下や咀嚼の障害：神経の衰えや筋力低下で飲み込めなくなることがあります。食べようとするが飲み込めずに口に残す例もあります。
- 消化器の不調：胃炎や腸の疾患、肝臓・腎臓の問題で食欲が落ちます。吐き気があり食べ物を受け付けない場合があります。
- 味覚・嗅覚の低下：加齢で匂いがわかりにくくなり、食べ物への興味が薄れることがあります。
見た目で気づくサイン
- 水は飲むが器に顔を近づけて食べ物を避ける
- よだれや口臭が強くなる、口を気にする仕草
- 食べようとするが咀嚼や嚥下で失敗する
- 活動量や反応が徐々に鈍くなる、体重の減少
リスクと受診の目安
24〜48時間以上ほとんど食べない、繰り返す嘔吐や著しい元気消失、短期間での体重減少がある場合はすぐに獣医に相談してください。水を飲めていても栄養不足で免疫力が落ち、回復が遅れます。
飼い主ができる初期チェック
- 口の中をやさしく確認する（無理はしない）
- 普段と違う呼吸や咳、吐き気の有無を観察する
- 食べようとするか、どの食事なら受け入れるかを試す（柔らかい・温めるなど）
- 症状の始まった日時や量をメモして獣医へ伝える
これらの特徴を把握すると、早めの対応につながりやすくなります。
老犬が食べない場合の対処方法
食事内容の工夫
脂肪がやや多めのフードを少量試します。脂質は嗜好性を上げやすいので、獣医と相談の上で切り替えます。温めて香りを出す、鶏ささみや煮干しのトッピング、ウェットフードを混ぜると食べやすくなります。硬さを柔らかくし、少量ずつ頻回に与えることを心がけます。
水分管理の重視
水分を十分に保つため、フードにぬるま湯やだしを加えます。自力で飲む量が減っている場合は給水器や浅い皿を用意し、脱水の兆候（唇や歯茎の乾き、皮膚の戻り遅れ）を確認します。
食事環境の改善
器の高さを調整して首や関節に負担をかけないようにします。滑り止めマットで足元を安定させ、静かで落ち着ける場所で食べさせます。多頭飼いなら別々に与えて競争を避けます。
その他の対処と注意点
短い散歩や軽いマッサージで食欲を促すことがあります。おやつで誘導するのも有効です。数日食べない、体重が落ちる、元気がない場合は早めに獣医に相談します。薬やサプリは獣医の指示で使用し、人間の食品は与えないでください。
実践の手順（例）
1) いつもの量の半分を温めて匂いを出す
2) トッピングを少量加え少しずつ与える
3) 30分ほど観察して残りは冷蔵保存
4) 体調の変化を記録し、2〜3日で改善しなければ受診する
変化はゆっくり行い、無理強いせず愛犬の様子を第一に考えてください。
最期が近づいているサインとの区別
はじめに
ご飯を食べなくなることは最期のサインの一つですが、必ずしも差し迫った死を意味しません。ここでは、急に弱る場合と一時的な食欲低下をわかりやすく区別します。
急激な状態悪化と穏やかな低下の見分け方
- 急激な変化：数時間〜1〜2日で極端にぐったりする、呼吸が荒くなる、けいれんや倒れるなど。これらがあれば緊急対応が必要です。
- 穏やかな低下：食欲が徐々に落ちるが、水を飲み、反応や歩行が保たれている場合。痛みや慢性疾患の影響で起こることが多いです。
観察すべき具体的なサイン
- 呼吸の乱れ（浅い・間隔が開く）
- 意識レベルの低下、反応が鈍い
- 排泄の異常（まったく出ない、あるいは失禁）
- 体温低下、四肢が冷たい
- 持続する嘔吐・血便
これらが複数あれば重篤なサインです。
無理に食べさせるかどうか
無理やり口に入れると誤嚥やストレスにつながります。苦痛が明らかなら無理に与えないほうが優しいことがあります。ただし、水を拒む・脱水の兆候がある・痛みで苦しんでいる場合は獣医へ相談し、点滴や鎮痛などの処置を検討してください。
獣医・家族との連携
日々の変化を記録して獣医に伝えると判断がしやすくなります。最期が近いかどうかは総合的な判断が必要です。医師と相談し、愛犬にとって最も穏やかな選択を一緒に考えてください。