はじめに
本調査の目的
本調査は、末期癌に罹患した犬の食事療法とレシピに関する実践的な情報をまとめたものです。飼い主が日常で取り入れやすい栄養管理法と具体的な食事例を提示し、犬のQOL（生活の質）を支えることを目的とします。
対象読者
末期癌と診断された犬を飼う方、獣医師やトリマーなどペットケアに関わる方を主な対象とします。専門知識がなくても分かるように丁寧に説明します。
注意点
ここでの情報は一般的な指針です。病状や薬の影響によって最適な食事は変わります。必ず主治医と相談してから実践してください。
本書の構成と使い方
栄養バランスの基本原則、推奨食材、具体的なレシピ、給餌期間や特有の注意点まで、全8章で段階的に解説します。必要な章だけを参照して日々の献立作りにお役立てください。
末期癌の犬の食事管理における基本原則
目的
末期癌の犬では、体重と筋肉の維持、痛みや不快の軽減、生活の質（QOL）維持が第一です。食事は限られた摂取量でできるだけ多くの栄養を与えることを目指します。
基本方針
- 低炭水化物・低糖質：癌細胞はブドウ糖を好むため、精製された炭水化物や砂糖を減らします。白米やパンは控えめにします。
- 高タンパク質：筋肉や内臓を守るため、良質なタンパク質（鶏肉、白身魚、卵など）を優先します。
- 高脂肪・高エネルギー：少量で高カロリーにするため、消化に優しい脂肪（オリーブ油や亜麻仁油など）を適度に加えます。
実践のポイント
- 小分け給餌：一度に多く食べられない場合は回数を増やします。
- 食欲増進の工夫：温めて香りを立たせる、好物を少量混ぜるなどで食欲を引き出します。
- 水分補給：水や薄めたスープで脱水を防ぎます。
注意点
- 人用の砂糖や加工品、玉ねぎやチョコレートなどは有害です。医師と相談の上、サプリメントや特別療法食を使います。
栄養バランスの具体的な数値目安
推奨される数値（目安）
- タンパク質：7.5g～11.25g
- 脂質：6.25g～10g
- 炭水化物：6.25g以下
- オメガ3脂肪酸：8.75g以上
- オメガ3：オメガ6 比率：1：1
解説（何を意味するか）
これらは療法食として目安にする数値です。タンパク質は筋肉や免疫を維持するために重要で、目安の下限・上限を守ることで栄養不足や過剰を避けます。脂質はエネルギー源となり、消化しやすい良質な脂を選びます。炭水化物は控えめにし、消化負担を減らします。オメガ3は抗炎症作用が期待されるため十分に確保します。比率1：1は炎症バランスを整える目安です。
高タンパクフードの特徴
一般的な高タンパクドッグフードは粗タンパク質35％以上、炭水化物を約27％に抑えています。高タンパクは筋肉維持に有利ですが、腎機能に不安がある場合は獣医と相談してください。
選び方のポイント
- 表示値を確認し、上記目安に近い製品を選びます。
- 原材料で良質なたんぱく源（鶏肉・魚など）とオメガ3源（魚油・亜麻仁油など）を確認します。
- 愛犬の体調や嗜好に合わせ、少量ずつ試して変化を観察します。
推奨される食材と抗酸化作用
概要
末期癌の犬には、消化にやさしく栄養密度が高い食材が適します。特に抗酸化作用を持つ成分は、細胞を守り免疫をサポートします。以下に具体的な食材とその理由、与え方の注意点をわかりやすくまとめます。
主な推奨食材と理由
- ブロッコリー、にんじん、かぼちゃ、さつまいも：ビタミンA（βカロテン）やビタミンCが豊富で抗酸化作用を持ちます。蒸すか柔らかく煮て与えます。
- 小松菜、ほうれん草、白菜、キャベツ：葉物でビタミンやミネラルを補えます。加熱して水気を切り、少量ずつ与えてください。
- きのこ類（しいたけ、まいたけなど）：免疫サポート成分が含まれます。加熱してから与えます。
- ゴボウ：食物繊維とポリフェノールを含みます。薄く切って加熱調理します。
- 鶏胸肉、生食用肉：消化しやすい良質なたんぱく源です。加熱または獣医指導の下で生を使用します。
- ヨーグルト（豆乳ヨーグルト推奨）：乳酸菌で腸内環境を整えます。乳糖不耐症の犬は豆乳由来が安心です。
- 鰹節粉、乾燥牡蠣：風味付けや亜鉛・ミネラル補給に役立ちます。少量で与えてください。
抗酸化成分の働き
βカロテン、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、セレンなどが代表です。これらは活性酸素の影響を和らげ、細胞の健康維持を助けます。食材を組み合わせると相乗効果が期待できます。
与え方と注意点
- よく加熱して消化しやすくする。生食は衛生面と獣医の指示を優先します。
- 味付けは控えめにし、塩・砂糖・ネギ類（タマネギ、ニンニク）は避けます。
- 一度に多量を与えず、小分けにして様子を見る。
- サプリや高用量の抗酸化剤は獣医と相談してください。
これらの食材を日々の食事に取り入れ、栄養のバランスと食べやすさを両立させることが大切です。
実践的なレシピ構成
概要
市販のドッグフードをベースに、加熱した野菜・きのこ類と生食用の肉をトッピングする半手作り食の構成を紹介します。10食分を小分けにして冷凍し、解凍して盛り付けるシンプルな流れです。
材料の比率と選び方
- ベース：市販ドライフードや総合栄養食ウェットを主に（全体の70〜80%）。
- トッピング：肉（生食用）10〜15%、野菜・きのこ10〜15%、良質な油（オリーブ油や亜麻仁油）小さじ1程度。
- 避ける食材：玉ねぎ、ニンニク、ブドウ、レーズン、チョコなどは厳禁。
下ごしらえと調理手順（10食分の例）
- 鶏むね肉（生食用）1kgを細かく切るか挽く。生で与える場合は信頼できる供給元を使用。
- 野菜（キャベツ200g、にんじん100g、ブロッコリー100g）を食べやすく刻み、蒸すか軽く茹でる。きのこ（しめじ100g）は軽く火を通す。
- 全て冷まし、ベースのフードとトッピングを混ぜる。油を加える。
- 1食分ずつラップや保存容器で小分けにして冷凍する。
解凍と与え方の注意
- 冷蔵庫で一晩かけて解凍するのが安全。急ぐ場合は電子レンジの解凍モードを使用し、中心まで冷たくないことを確認。
- 与える直前にぬるま湯や無塩のチキンブロスを少量加えると香りが立ち、食欲が増します。
- 一度解凍したものは再冷凍しないでください。
レシピ例（簡単）
- 鶏むねベース：鶏むね100g＋蒸しキャベツ50g＋蒸しにんじん20g＋オリーブ油小さじ1＋ドライフード適量。
- 魚ベース：白身魚100g（生食用）＋ブロッコリー30g＋しめじ20g＋亜麻仁油小さじ1＋ドライフード適量。
最後に
食材の変化を少しずつ試し、愛犬の消化や嗜好を確認してください。疑問点はかかりつけ獣医師に相談してください。
給餌期間と栄養管理
給餌期間の基本
療法食は原則として20日間の給餌期間で設定されます。20日で一度見直すことで、体重や食欲、便の状態など変化を早めに把握できます。初日（開始日）に現状を記録し、7日・14日・20日程度で簡単にチェックすると管理が楽になります。
オンライン相談とフォロー体制
オンライン相談は60日おきに実施可能です。60日まで待たずに気になる変化があれば早めに相談してください。相談では体重変動、食事量、嘔吐・下痢の有無、元気度を伝えると具体的な指示が出やすくなります。
実際の栄養調整の流れ
- 20日ごとに給餌量と内容を評価します。必要ならカロリーやたんぱく質比率を調整します。
- 食欲不振や体重減少が続く場合は早期に量よりも嗜好性の向上や温めるなどの工夫を試します。
- 炎症や臓器値の変化があるときは獣医師の検査結果に基づいて栄養バランスを見直します。
毎日の観察ポイントと記録
・給餌量と実際に食べた量を記録します。写真を撮るとわかりやすいです。
・体重はできれば週1回測定し、増減をメモします。
・便の硬さ、回数、嘔吐の有無を記録します。
給餌方法の工夫
小分けにして頻回給餌にすると消化が楽になります。嗜好性が落ちた場合は温める、トッピングを少量使うなどで食いつきを助けます。サプリや薬は指示に従い、餌と別に与えるタイミングがあるものは守ってください。
緊急時の目安
急激な元気消失、著しい体重減少、続く嘔吐や血便が出た場合は速やかに獣医師に連絡してください。療法食の見直しや入院が必要になることがあります。
上記を日常的に行うことで、20日間のサイクルと60日ごとの相談を有効に使い、愛犬の状態に応じた継続的な栄養管理ができます。
末期癌特有の食事管理のポイント
概要
末期の犬には炭水化物を抑え、たんぱく質と脂質で効率よくエネルギー補給します。水分を十分に取りやすくすることが健康維持に直結します。
エネルギー源の工夫
- たんぱく質：鶏胸肉、白身魚、卵など消化しやすいものを中心にします。少量をこまめに与えて吸収を助けます。
- 脂質：魚油やオリーブオイルで高エネルギーを補います。香りが食欲を刺激することがあります。
水分補給
- ウェットフードや薄めたブロス（玉ねぎ・にんにく不使用）で水分を増やします。
- 飲めない場合は、スプーンやシリンジで少量ずつ与えることを検討します。
添加物・保存料の回避
- 自然素材のシンプルな食材を選びます。市販の加工品は原材料を確認し、防腐剤や香料を避けます。
食事変更とストレス配慮
- 変更は急に行わず、元の食事と混ぜながら5〜7日かけて移行します。食いつきや体調を見ながらさらにゆっくり進めてください。
実践のチェックポイント
- 体重、排便、嘔吐、飲水量を記録します。食欲低下や脱水が続く場合は獣医に相談してください。
獣医との連携
- 痛みや消化不良、投薬の影響を踏まえて栄養プランを調整します。日々の観察を共有することで最適な支援が可能です。
食事療法の総合的アプローチ
目的と基本方針
末期癌の犬に対する食事療法は、免疫力の支援、痛みや不快感の軽減、日常生活の快適さの維持を目的にします。無添加で消化に良い自然食材を基本に、個々の症状に合わせ調整します。
食材と栄養設計
タンパク質は量より質を重視し、消化の良い鶏胸肉や白身魚を中心にします。脂肪はエネルギー源として良質なオメガ-3（例：亜麻仁油、魚油）を取り入れます。野菜は加熱して繊維を柔らかくし、ビタミンと抗酸化物質を補います。
AFFCO基準とカスタマイズ療法食
理想はAFFCO（総合栄養基準）に準拠したレシピをベースに、獣医師と連携して病状別に栄養素を調整することです。腎機能や肝機能の低下、食欲不振などに応じてタンパク質・塩分・脂肪を調節します。
免疫サポートとストレス軽減
抗酸化物質（ビタミンEやセレンを含む食材）を取り入れ、腸内環境を整えるために消化に優しい食材を使います。また、少量頻回給餌や嗜好性の高いトッピングで食欲を刺激し、ストレスを減らします。
日常ケアと実行上の注意点
食事は温かくして香りを立て、無理に与えず犬の反応を最優先にします。サプリメントや新しい食材は必ず獣医師に相談してください。定期的な体重・体調の記録で効果を確認し、必要に応じて調整します。