はじめに
このドキュメントの目的
本書は、犬が消化不良で下痢を起こしたときに飼い主が知っておきたい情報をわかりやすくまとめたガイドです。原因の見分け方、家庭でできる対処法、受診の目安、予防のポイントまで順を追って説明します。
誰に向けた内容か
日ごろ犬を世話する飼い主さん向けに書いています。獣医師でなくても理解できるよう、専門用語は最小限にし、具体例を交えて解説します。
本書の使い方
まず第2章で消化不良の原因を中心に学び、第3章でそれ以外の原因を確認してください。第4章で消化不良による下痢の特徴を見分け、第5章で家庭での対応を試します。第6章ではすぐに受診すべきケースを挙げ、第7章で予防法をまとめます。
注意点
急な血便や元気消失、嘔吐が続く場合は早めに動物病院へ連絡してください。本書はあくまで一般的な情報提供を目的としています。
犬が下痢をする主な原因(消化不良を中心に解説)
概要
犬の下痢で最も多いのは消化不良によるものです。消化器が急な刺激や普段と違うものに対応できず、便がゆるくなることが多いです。年齢や体調で差は出ますが、家庭で起きやすい原因を中心に説明します。
主な原因(消化不良)
- 食べ慣れないフードへの急な切り替え:腸内環境が変わって下痢を招きます。
- 人間の脂っこい食べ物:揚げ物や味付けの濃い料理は消化に負担がかかります。
- 拾い食い・生ゴミ:腐ったものや細菌が多いものを食べると炎症を起こします。
- 食べ過ぎ・早食い:胃腸に負担がかかり消化が追いつきません。
- 乳製品(牛乳など):犬は乳糖を分解しにくく下痢を起こしやすいです。
日常での具体例
- フードを急に変えた翌日にゆるい便が出る。
- 散歩中に落ちていたお菓子を食べてから下痢が続く。
- おやつを増やしたら軟便になった。
注意点と対処のポイント
- フード切り替えは7〜10日かけて少しずつ行いましょう。
- 人間の食べ物は原則与えないでください。どうしても与えるなら少量にします。
- 食べ過ぎを防ぐため、適正な給与量を守り、一回の食事で詰め込み過ぎないようにします。
- 牛乳は避け、ヨーグルトも無糖・少量にする方が安心です。
- 拾い食い対策として散歩時は注意を払い、口の届かない場所にバッグを持つなど工夫してください。
日常のちょっとした配慮で消化不良を防げることが多いです。次の章では消化不良以外の原因について見ていきます。
消化不良以外の下痢の主な原因
1) 感染症(ウイルス・細菌・寄生虫)
ウイルス(パルボ、コロナなど)や細菌(サルモネラなど)、回虫やコクシジウムといった寄生虫が下痢を起こします。急に水のような下痢や血便、嘔吐、元気消失が見られたら感染を疑います。特に子犬やワクチン未接種の犬は重症化しやすいので、早めに獣医師に相談してください。
2) 食物アレルギー・過敏症
同じ食事を長く続けた後や新しいフードを与えた後に慢性的なゆるい便やかゆみ、耳のトラブルが続く場合は食物アレルギーや過敏症が原因のことがあります。除去食(成分を限定した食事)で改善するか確認します。
3) ストレスや環境の変化
引越し、来客、旅行、動物病院の受診など環境が変わると腸の調子を崩す犬がいます。緊張で下痢することがあり、落ち着ける環境作りや徐々に慣らす対応が有効です。
4) 慢性腸疾患や腫瘍
慢性的に続く下痢や体重減少、血便があれば炎症性腸疾患や腫瘍の可能性があります。検査や内視鏡、組織検査で原因を調べる必要があります。
5) 膵炎・肝臓・腎臓などの基礎疾患
膵炎は激しい腹痛や嘔吐を伴い、下痢も生じます。肝臓や腎臓の病気でも消化・吸収が乱れ下痢になるため、全身状態の変化がある場合は血液検査などでの評価が必要です。
注意すべき犬
子犬、ワクチン未接種犬、老犬は症状が急速に悪化します。血便、高熱、ぐったり、持続する嘔吐や食欲消失があるときはすぐに受診してください。
消化不良による下痢の特徴と見分け方
発症の仕方
消化不良による下痢は急に起きることが多いです。元気や食欲が保たれている場合は一過性である可能性が高く、軽い不快感で済むことがあります。たとえば、ドッグフードを替えた翌日や散歩中に拾い食いをした後に始まることが多いです。
便の特徴
便に未消化の食べ物(粒のままのフードや野菜片)が混ざることがあります。色は極端に変わらないことが多く、血や大量の粘液がない場合は消化不良の可能性が高いです。においが強くなることもあります。
伴う症状の見分け方
嘔吐や食欲不振、元気のなさ(ぐったりする)がないかを確認してください。これらの症状が無ければ、単純な消化不良であることが多いです。一方、嘔吐やぐったり、血便がある場合は別の病気の可能性が高くなります。
発症のタイミングと原因の手がかり
食事の変更、与えすぎ、急な人間の食べ物、庭や道端での拾い食い、ストレスや環境の変化の直後に起こることが多いです。複数回の環境変化や間食が思い当たると、消化不良が疑いやすくなります。
家庭での確認ポイント
・水を十分に飲んでいるか
・便の形状(未消化物の有無)と回数
・嘔吐や発熱の有無
・元気や遊びへの反応
これらを観察して、24〜48時間で改善するかを確認してください。改善が見られない、あるいは悪化する場合は受診を検討してください。
家庭でできる対処法
1)まずは絶食して様子を見る
下痢が始まったら、まず8〜12時間ほど食事を止めて消化器を休ませます。ただし、子犬・高齢犬・持病のある犬は低血糖や体力低下の危険があるため、獣医師に相談することを優先してください。
2)水分補給をこまめに
脱水を防ぐために水はいつでも飲めるようにしておき、少量を何度も与えます。ぐったりして口を開けている、歯茎の色が薄い、皮膚の弾力が落ちているなど脱水の兆候があればすぐ受診してください。人用のスポーツ飲料は与えず、必要なら獣医師に適した補液を相談します。
3)軽度の場合の食事管理
元気と食欲がある軽度の下痢は、絶食の後に消化の良い食事に切り替えます。例:茹でた鶏むね肉(皮なし)と白米を薄めに混ぜたものを少量ずつ与え、数日で通常食に戻します。
4)フードやおやつの変更は徐々に
新しいフードやおやつは、3〜7日かけて少しずつ混ぜながら切り替えます。急な変更は消化不良を招くため避けます。
5)誤食や異物の疑いがある場合
ビニール、おもちゃの破片、薬などを食べた疑いがあるときは自宅で様子を見るより早めに動物病院へ連れて行ってください。
6)注意して観察するポイント
血便、頻回の嘔吐、強い元気消失、発熱、飲水しない状態が続くときは速やかに受診してください。市販薬は獣医に相談の上で使いましょう。
早めに動物病院を受診すべきケース
受診をおすすめする主な症状
- 下痢が2日以上続く場合:軽い下痢でも長引くと脱水や別の病気が隠れていることがあります。
- 嘔吐を繰り返す場合:吐き気と下痢が同時に続くと体力を消耗します。
- 血便・黒色便・ゼリー状便が出る場合:血便や黒色便(タール状)は消化管の出血を示す可能性があります。ゼリー状の粘液は腸の炎症が強いサインです。
元気や食欲の変化、全身症状
- 元気がなくぐったりしている、食欲が落ちている場合は早めに診察を受けてください。
- 発熱や腹痛(触ると嫌がる、腰を丸める、鳴く)を伴う場合は緊急性が高いです。
- 急な体重減少が見られる場合も注意が必要です。
脱水・重症化の兆候
- 目が落ちくぼむ、口の中が乾いている、皮膚の弾力が低下している場合は脱水が進んでいます。放置すると命に関わることがあります。
早めに受診したほうが良い犬
- 子犬・老犬、心臓病や糖尿病などの持病がある犬は、症状が軽くても早めの受診をおすすめします。
受診時に持って行くと役立つもの
- 便のサンプル(できれば新しいもの)、飲ませた食事の記録や与えた薬の情報、症状が始まった時刻や経過をメモしてお持ちください。獣医師が状況を把握しやすくなります。
下痢・消化不良の予防ポイント
食事の基本
食事は適量・規則正しく与えます。成犬か子犬かで量や回数を調整し、体重に合わせた目安量を守ってください。人間の食べ物は与えないでください。特に脂っこいもの、塩分の強いもの、チョコレートやネギ類は危険です。
フード切り替えの方法
フードを変えるときは7〜10日かけて少しずつ混ぜます。初日は新フードを全体の10%程度にして様子を見て、問題なければ毎日少しずつ割合を増やします。
環境とストレス対策
急な環境変化や大きな騒音は消化に影響します。引っ越しや来客時は徐々に慣らし、散歩ルートや飼い主の生活リズムを急に変えないようにします。
誤食・拾い食いの防止
散歩中は口元をよく見る、リードを短めに持つ、庭は定期的に片付けて危険物を取り除きます。家の中でもゴミ箱や薬は手の届かない場所に置きます。
健康チェックと予防
定期的に体重や被毛、便の状態をチェックします。寄生虫駆除やワクチンは獣医の指示に従って適切に受けましょう。体調の変化は早めに記録します。
日常の観察ポイント
便の色や形、回数の変化、元気や食欲の有無を日々確認します。少しの変化でも早めに対応すると重症化を防げます。