目次
はじめに
目的
この文書は、犬が低血糖になったときに飼い主が落ち着いて対応できるよう、必要な情報を分かりやすくまとめたものです。特に、応急処置としてのガムシロップや砂糖水の使用方法、適切な投与量、注意点、さらに人用ガム(キシリトール入り)の誤食リスクについて詳しく解説します。
対象の方
子犬や糖尿病の犬を飼っている方、薬や手術の影響で低血糖が心配な方、普段から愛犬の体調変化を注意深く見たい方に向けています。獣医師でない飼い主が現場でできる応急処置を中心に扱います。
本書の構成と使い方
第2章で低血糖の症状と原因を説明し、第3章〜第5章で応急処置の具体的な手順、与える糖分の量や作り方、応急処置後の対応を順に解説します。第6章ではキシリトール入りガムの危険性を述べ、第7章でポイントをまとめます。急を要する場合は、まず安全な方法で糖分を与え、速やかに獣医師へ連絡してください。
この章を読み終えたら、次は第2章へお進みください。
犬の低血糖症とは
定義
犬の低血糖症は、血液の中のブドウ糖(血糖)が急に低くなる状態です。脳や筋肉に必要なエネルギーが足りなくなり、体の働きが急激に落ちます。命に関わることがあるため早めの対応が重要です。
主な原因
- 糖尿病の治療でインスリンが効きすぎた場合
- 子犬や小型犬で体に蓄えが少ない場合
- 長時間の空腹や嘔吐で栄養がとれない場合
- 激しい運動や重い病気で消費が増えた場合
主な症状(分かりやすい例)
- 元気がなくなりぐったりする
- 手足や体が震える
- 足元がふらつきよろめく
- ひどいとけいれんや意識を失う
誰が特に注意か
子犬、糖尿病治療中の犬、痩せている犬、長時間食べていない犬は特に起こりやすいです。
どうして危険か
脳がエネルギー不足になり、けいれんや呼吸停止に進むことがあります。早く血糖を回復させないと後遺症や死亡のリスクが高まります。
受診の目安
上記の症状が見られたらすぐに動物病院へ連絡してください。家庭での対応は限られるため、専門家の診察が必要です。
低血糖時の応急処置とガムシロップの使用方法
症状の確認
まず落ち着いて犬の様子を観察します。ぐったりしている、ふらつく、震える、よだれが多い、虚ろな目つきやふらつきがあれば低血糖の可能性があります。呼吸や反応が極端に弱ければ緊急受診を検討してください。
自力で食べられる場合の対応
少量ずつ与えます。ガムシロップや砂糖水、はちみつ、ブドウ糖剤などをスプーンや指で舐めさせます。量はごく少量(小型犬なら2–5ml程度)を数分ごとに繰り返し与え、回復を確認します。急に大量に与えると嘔吐することがあるので注意してください。
自力で食べられない場合の対応
意識が朦朧としている、飲み込めない場合は無理に口に入れないでください。スポイトや注射器(針なし)で少量ずつガムシロップや砂糖水を歯茎に塗り込みます。犬の口をやさしく開け、上顎の内側や歯茎にゆっくり塗ると吸収されやすいです。飲み込まない状態で無理に押し込むと窒息の危険があるため慎重に行ってください。
すぐに動物病院へ行くべき場合
痙攣、意識消失、呼吸困難、または与えた後に改善が見られない場合は、すぐに動物病院へ連絡し受診してください。応急処置は一時的な対処であり、獣医師の診察が必要です。
ガムシロップや砂糖水の適切な量と作り方
基本の考え方
低血糖のときは「少量ずつ、むせないように」が基本です。犬が飲めるか、反応があるかを確かめながら与えます。意識がない、強くけいれんしている場合は無理に与えず、すぐに獣医に連絡してください。
ガムシロップの量と与え方
- 目安:スポイトや注射器で“数滴〜数ml”を目安に、少しずつ口に入れます。小型犬はより少量から始めます。
- 与え方:口の横からゆっくり流し込み、または指の腹に少量つけて歯ぐきに塗り込みます。むせないか常に確認してください。
- 回数:数分ごとに様子を見ながら繰り返します。一度に大量に与えないでください。
砂糖水の作り方(家庭での目安)
- 比率:砂糖1:水4(重量や体積で同じ比率で構いません)。
- 温度:人の体温に近い温度(約37℃前後)に温めると飲ませやすくなります。
- 保管:作り置きは避け、使う分だけ作ってください。
与えるときの注意点
- 誤嚥(ごえん)防止:頭を少し上げ、犬がむせないように慎重に与えます。意識が低下している場合は絶対に口から与えないでください。
- 成分確認:ガムシロップや市販品にキシリトールが入っていないか必ず確認してください。キシリトールは犬に非常に危険です。
- その後の対応:短期的に血糖が上がっても根本治療が必要なことがあります。できるだけ早く獣医で受診してください。
応急処置後の対応と注意点
緊急処置後は必ず受診する
ガムシロップなどで症状が落ち着いても、応急処置は一時的な対処です。必ず速やかに動物病院で診察を受けてください。血糖値や血液検査で原因を調べ、適切な治療や予防策を決めます。
動物病院で伝えるべきこと
- 発症時刻と症状の経過
- 与えたもの(種類と量)、与え方(口から・歯ぐきに塗布など)
- 持病や常用薬、最近の食事内容
- 可能なら動画や写真
自宅での観察と記録
- 食欲、元気、ふらつき、震え、痙攣の有無を観察し、時間を記録します。
- 家庭用血糖測定器があれば定期的に測り、数値をメモしてください。獣医に見せると診断が早くなります。
日常の予防と管理
- 少量頻回の食事で急激な低血糖を防ぎます。
- 糖尿病や肝疾患がある犬は特に注意し、定期的な血液検査を受けてください。
- 獣医と相談して常備薬や食事の調整を行ってください。
常備しておくものと注意点
- ガムシロップやブドウ糖ゼリー、ブドウ糖タブレット、家庭用血糖計、注射器(量る用)を用意しておくと安心です。
- キシリトール入り製品は絶対に使わないでください。
- 意識がない場合は無理に口に入れず、すぐに救急を受診してください。
再発や改善しない場合の対応
痙攣や意識障害が続く、あるいは短期間に再発する場合は緊急処置だけでは不十分です。できるだけ早く専門医で原因を詳しく調べてもらい、治療計画を立ててください。
キシリトール入りガムの誤食について
何が問題か
キシリトールは人が安全に使う甘味料ですが、犬には非常に危険です。短時間で大量のインスリン分泌を促し、急速に低血糖を引き起こします。さらに多量では肝障害を起こすことがあります。
どのくらいで危険か(目安)
- 体重1kgあたり0.1g(100mg)以上で急性低血糖のリスク
- 体重1kgあたり0.5g(500mg)以上で肝不全の可能性
例:体重5kgの犬は0.5gで低血糖、2.5gで肝障害の恐れがあります。小型犬ではガム1粒でも危険な場合があります。
誤食したらどうするか
誤食に気づいたらすぐに動物病院へ連絡し、受診してください。症状が出るのを待たずに行くことが大切です。獣医の指示がない限り自己判断で吐かせたり、糖を与えたりしないでください。症状としては嘔吐、ぐったり、震え、ふらつき、痙攣、数日後の黄疸などがあります。
受診時に伝えること
- いつ、何を、どれくらい食べたか(包装があれば持参)
- 犬の体重と普段の健康状態
- 見られる症状や行動の変化
予防のポイント
ガムやキャンディは手の届かない場所に保管し、来客にも注意を呼びかけてください。小さな子どもがいる家庭では特に注意が必要です。
まとめ:低血糖時のガムシロップ使用のポイント
犬が低血糖を起こしたとき、ガムシロップや砂糖水は応急処置として有効です。大切なのは“少量ずつ、安全に与える”ことです。
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与え方の基本:まず犬を落ち着かせ、むせない姿勢にします。ガムシロップを注射器(針なし)やスポイト、スプーンで少しずつ歯茎や口の端に塗るように与えます。直接口の奥に押し込まないでください。
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目安量:体重や状態で変わりますが、目安は小型犬なら約5ml(小さじ1)、中型犬は5〜15ml(小さじ1〜大さじ1)、大型犬は15〜30ml(大さじ1〜2)程度です。むせる場合は量を減らし、間隔をあけて少量ずつ与えます。
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応急処置後の対応:症状改善が見られても、すぐに動物病院で診察を受けてください。血糖値の測定や必要な点滴・投薬が行われることがあります。ガムシロップの容器や誤食した物の情報を持参すると診察がスムーズです。
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注意点:キシリトール入りの製品は犬に極めて危険です。人用ガムやキシリトールを含む食品は絶対に与えないでください。むせやすい、意識がない場合は無理に与えず、すぐに獣医師に連絡してください。
日頃から食事管理とストレスや低血糖の原因になりうる病気の予防を心がけると、再発を防ぎやすくなります。