目次
はじめに
目的
この章では、本書の趣旨と読者の方に期待することをお伝えします。飼い主さんが愛犬の食欲低下に直面したとき、冷静に判断できるように情報を整理しました。シニア期の変化や病気、行動の背景を理解して、適切な対応につなげることを目標とします。
想定する読者
・シニア犬を飼っている方
・最近ご飯を食べないが、おやつは食べる犬を心配している方
・獣医に相談する目安を知りたい方
本書で扱う内容の概要
・加齢による体の変化と病気の背景
・「ご飯は食べないのにおやつは食べる」状態の可能性と危険性
・緊急で受診すべきサインと家庭でできる工夫
読みやすく、実践しやすい内容にしています。専門用語は最小限にし、具体例を交えて丁寧に説明します。気になる点があれば、次章以降を順にご覧ください。
老犬が「ご飯は食べないのにおやつは食べる」状態は危険?
老犬が主食のご飯を残す一方でおやつだけ欲しがる場合、それは単なるわがままではないことが多いです。体の痛みや歯の不調、消化器の不具合、あるいはにおいや食感への敏感さが原因で、ご飯を避ける一方で匂いが強いおやつには反応することがあります。
- 受診の目安
- ご飯を24時間以上まったく食べない場合は動物病院を受診してください。
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水を12時間以上飲まない、嘔吐や下痢、ぐったりがある場合はすぐに受診が必要です。
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おやつを食べるからと安心してはいけません
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おやつはエネルギーの補填にはなるものの、栄養バランスが偏りやすいです。体重の減少や元気のなさが進むと回復が遅れます。
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日常でできる観察と対応
- いつから続いているか、量や時間を記録します。体重を週に1回測ると変化が分かりやすいです。
- 口の中や歯を軽く確認し、痛がる様子がないか見ます。柔らかい食事や温めた食事に変えて反応をみてください。
- おやつを与える際も栄養価の高いものにし、食事の代わりにしないようにします。
総合的に判断し、長引く場合や症状が重い場合は早めに受診することが大切です。
老犬がご飯を食べなくなる主な原因
加齢による体の変化
年をとると基礎代謝や運動量が落ち、必要なエネルギーが減ります。味覚や嗅覚も衰え、香りや風味が感じにくくなるため食欲が落ちます。消化機能の低下で消化に時間がかかり、満腹感が早く出ることもあります。また、噛む力や飲み込む力が弱まり、硬いドライフードを嫌がる犬が増えます。具体例としては、以前好んでいたドライフードを残す、食べるのが遅くなるなどです。
病気が原因の場合
病気が食欲不振を引き起こすことが多いです。消化器の問題(胃腸炎、腫瘍)、内臓疾患(腎臓・肝臓の不調)、ホルモンの乱れ、慢性的な痛みや感染症などが考えられます。歯周病や口内炎は特に多く、口の痛みで硬いものを避ける傾向があります。症状の例として、嘔吐、下痢、体重減少、よだれ、口臭が挙げられます。
メンタル・環境要因
環境の変化(引っ越し、家族の不在)、日常のルーティンの崩れ、分離不安やうつに似た状態で食欲が落ちます。高齢になると感覚や認知が変わり、新しい刺激に対して不安を感じやすくなります。例えば、食事の場所を変えたら食べなくなった、知らない人が来た後に食が細くなったなどです。
口腔の問題(歯・舌・顎)
歯が折れる、歯石で歯周病になる、入れ歯のように歯が抜けると噛めなくなります。口の中に痛みがあると硬いフードや冷たいフードを避けます。おやつは小さく柔らかいものが多いため食べられる場合があります。
短い対応のポイント
まずは口の中を優しく確認し、硬さを変えた食事や温めて香りを立たせる工夫を試してください。食欲不振が1〜2日で改善しない、体重が減る、元気がないといった場合は早めに獣医師に相談しましょう。
「おやつは食べる」のはなぜ?考えられる3つの背景
老犬がご飯は残すのにおやつは食べる――飼い主さんは戸惑いますよね。ここでは考えられる主な3つの背景をやさしく説明します。
1. 歯や顎が痛くて硬いものがつらい
おやつは柔らかかったり小さく噛みやすかったりします。歯周病や抜けた歯、顎の痛みがあるとドライフードや固い食事がつらく、ご飯を残す原因になります。具体的にはドライをぬるま湯でふやかす、缶詰やペースト状の食事に替える、動物病院で歯の検査を受けることをおすすめします。
2. 味覚・嗅覚の低下で香りや脂肪に反応しやすい
年を取ると嗅覚や味覚が鈍ります。おやつは脂肪分や香りが強く、味が濃いことが多いため反応しやすくなります。食事を少し温めて香りを立てる、鶏スープ少量をかける、消化にやさしいトッピングで食欲を促すと良いでしょう。
3. 学習(残すとおやつがもらえる)
ご飯を残すとその後におやつがもらえる経験が続くと、「残した方が得」と学習します。意図せず習慣化すると進行します。対策は食事量を少なくして完食しやすくする、残したからすぐにご褒美を与えない、食事のルールを決めることです。
ただし、これらは身体的・心理的な要因が背景にあることが多く、単なるわがままと決めつけるのは危険です。様子が続く場合は早めに獣医師に相談してください。
- まずは口の中のチェック
- 食事の温度や形状を工夫
- おやつの与え方を見直す
こうした対応で改善することがよくあります。
すぐに病院に行くべき危険サイン
以下の症状が見られる場合は、できるだけ早く動物病院を受診してください。早期の対応が命を救うことがあります。
食欲・水分に関する目安
- ご飯を24時間以上まったく食べない:老犬は短期間で体力が落ちます。低血糖や免疫力低下の危険があります。
- 水を12時間以上飲まない:脱水が急速に進みます。口や皮膚の乾き、ぐったりが出ます。
消化器症状
- ひどい嘔吐や下痢、血便・黒い便:出血や消化管の重大な異常を示すことがあります。脱水やショックにつながります。
全身・行動の変化
- 急に元気がなくぐったりしている:痛みや内臓の急変が考えられます。
- 体重が急激に減る:食べられない状態が続いている可能性があります。
口や呼吸の異常
- 口を触ると痛がる・口臭が強い:歯周病や口内の炎症、腫瘍などが疑われます。
- 呼吸が速い・苦しそう・咳が増えた:心臓や肺の病気、気道の問題の可能性があります。
急激な悪化や「いつもと明らかに違う」様子があれば、ためらわず受診してください。受診時には症状の開始時間、食べたもの、飲水量、飲ませた薬やおやつを記録してお持ちください。嘔吐物や便の写真やサンプルがあると診察がスムーズです。無理に食べさせたり与えたりせず、安静を保って早めに専門家の診察を受けましょう。
老犬がご飯を食べないときに考えられる具体的な原因
1. 歯・口腔内のトラブル
歯周病、歯肉炎、口内炎、腫瘍などで噛むと痛みを感じ、ご飯を避けることがあります。よだれが多い、口臭が強い、歯に汚れが見える、口を触られるのを嫌がる場合は疑いが強いです。対処法としては、やわらかく温めた缶詰やペースト状の食事を与え、痛みで食べられないときは早めに動物病院で口腔検査を受けてください。歯科処置や痛み止めで改善することが多いです。
2. 内臓疾患や代謝の異常
腎臓病、肝臓病、糖尿病、消化器のトラブル、がんなどが食欲低下の原因になります。嘔吐、下痢、体重減少、飲水量・排尿量の変化、元気の低下があれば注意してください。家庭でできるのは観察と食べやすい食事の工夫だけです。検査で原因を特定し、治療方針を決めるために獣医師の診察を受けましょう。
3. 関節・筋力の問題
立ち上がる・首を下げる姿勢がつらくてご飯へ向かいにくいことがあります。特に前脚や首の痛み、後肢の弱さがある老犬で見られます。高さを調節した食器台、浅めで滑らない皿、食事の回数を増やして少量ずつ与えるなど環境を変えると楽になります。必要ならリハビリや痛みの治療を獣医に相談してください。
4. ストレスや環境の変化
引っ越しや来客、同居犬との関係性の変化、飼い主の生活リズムの変化などで食欲が落ちることがあります。静かな場所でいつもの食器、決まった時間に与えるなど安心できる環境を整えましょう。匂いの強いおやつで誘導し、徐々に食事に戻す方法も有効です。
※これらは単独で起こることも、複数が重なることもあります。原因がはっきりしない場合や改善が見られない場合は、速やかに獣医師の診察を受け、血液検査や口腔の詳細検査などを行ってください。