目次
はじめに
本調査は、老犬の1日の適切な給餌量を算出するための手引きです。年を重ねた犬は運動量や代謝が変わり、若犬と同じ食事では体重管理や健康維持が難しくなります。本書では計算の基本、RER・DERの求め方、具体的な給餌量の計算例と目安表、注意点や給餌回数の工夫まで、実用的にまとめています。
対象は飼い主様や介護に携わる方です。栄養学の専門知識がなくても計算できるよう、式は簡潔に示し、具体例で補足します。各章は順を追って計算できる構成ですので、初めての方でも無理なく進められます。
最後に、ここで示す計算は一般的な目安です。犬種や持病、投薬の有無によって必要量は変わりますので、異変があれば速やかに獣医師にご相談ください。次章から計算の基本概念をわかりやすく解説します。
老犬の食事量計算の基本概念
概要
老犬に合った食事量を決めるには、まずRER(安静時必要エネルギー量)とDER(1日必要エネルギー量)という二つの考え方を理解します。RERは体が安静にしていても使うエネルギーの目安で、すべての計算の出発点になります。DERはそのRERに生活環境や年齢、運動量などを加味した一日の必要エネルギー量です。
RERとは何か
RERは基礎的な代謝量に近い値です。犬種や個体差がありますが、計算式の代表例は「70×体重(kg)^0.75」や簡単な近似式「30×体重+70」です。たとえば体重10kgの犬なら、簡易式で約370kcal、厳密式で約395kcalになります。どちらも目安と考えてください。
DERとは何か
DERはRERに補正をかけた値です。成犬、妊娠・授乳期、活動的な犬、老犬などで必要量が変わります。老犬は運動量が減るため、一般に成犬より少し低めの係数を使いますが、病気や体重管理の必要があれば増減します。
計算の流れ(手順)
- 現在の体重を正確に測る。
- RERを計算する(70×体重^0.75 または 30×体重+70)。
- 老犬用の係数を選び、RERに掛けてDERを求める(例:1.0〜1.4の範囲が目安)。
- 与えているフードのカロリー(kcal/100g)で1日の給餌量(g)を計算する。
具体例(簡単)
体重10kg、RERを370kcal、目安係数1.3の場合、DER=370×1.3=481kcal。フードが350kcal/100gなら、1日の量は約137g(481÷3.5)になります。
注意点
数値はあくまで出発点です。食後の体型(やせすぎ・太りすぎ)や動き、病気の有無で調整が必要です。体重や体格を定期的に確認し、変化が大きければ獣医師と相談してください。
RER(安静時必要エネルギー量)の計算方法
RERとは
RER(Resting Energy Requirement)は、安静にしているときに犬が必要とするエネルギー量です。基礎的な代謝を示す目安で、給餌量を決める出発点になります。
計算式
代表的な計算式は次の2つです。
- 体重(kg) × 30 + 70
- 70 × 体重(kg)^0.75
後者がより正確とされますが、どちらも使われます。
具体的な計算手順(70×体重^0.75を使う場合)
- 体重を3回かけて体重^3を作ります(例:5kg → 5×5×5=125)。
- その数の平方根を取ります(1回目、例:√125=11.18)。
- さらにもう一度平方根を取ります(2回目、例:√11.18=3.344)。
- 最後に70をかけます(例:3.344×70=234.1 kcal)。
例:体重5kgの老犬
- 30×5+70=220 kcal
- 70×5^0.75 ≈ 234 kcal
両者で差はありますが、目安としてはどちらでも使えます。計算の結果は四捨五入して整数kcalにしてください。
注意点
RERは安静時の必要量です。活動量や健康状態で必要エネルギーは変わりますので、次章であるDERの計算と合わせて最終的な給餌量を決めてください。
DER(1日必要エネルギー量)の計算方法
DERとは
DERは犬が1日に必要とする総エネルギー量です。RER(安静時必要エネルギー)に、その犬の活動量や状態を反映した係数を掛けて求めます。高齢犬の目安は一般に1.1~1.4です。
係数の目安と選び方
- 活発でよく運動する高齢犬:1.3~1.4
- 通常の高齢犬(散歩程度):1.2~1.3
- 不活発・肥満ぎみの犬:1.1~1.2
- 減量が必要な犬:1.0(獣医の指導が必要)
個体差が大きいため、体型(BCS)や日々の活動を基に選びます。
計算手順(簡単)
- まずRERを求めます(前章参照)。
- 上の目安から該当する係数を決めます。
- DER = RER × 係数 を計算します。
具体例
例:RERが400 kcalの高齢犬で、散歩中心なら係数1.2を使います。
DER = 400 × 1.2 = 480 kcal/日
フードのパッケージに記載されたkcal/100gで換算すると給餌量が分かります。
実際の調整方法
初期計算後は、2〜4週間ごとに体重と体型を確認して調整します。増えすぎる場合は5〜10%減らし、痩せる場合は同程度増やします。病気や薬の影響で必要量が変わることもありますので、気になる変化があれば獣医に相談してください。
1日の給餌量の最終計算
計算の基本式
DER(1日必要エネルギー量)が算出できたら、フードのカロリー量(通常は100gあたりのME=kcal)を使って実際の給餌量を求めます。計算式は簡単です。
給餌量(g/日)= DER(kcal/日) ÷ フードのカロリー(kcal/g)
メーカー表示が100gあたりのkcalなら、kcal/gは「表示値 ÷ 100」で求めます。
具体例
- 例1:DER=600 kcal/日、フード=350 kcal/100g → kcal/g=3.5 → 給餌量=600 ÷ 3.5 ≒ 171 g/日
- 例2:DER=900 kcal/日、フード=400 kcal/100g → kcal/g=4.0 → 給餌量=900 ÷ 4.0 = 225 g/日
メーカーが「1カップあたり○kcal」と書いてある場合は、1カップを計りで量ってg数を確認し、同様にkcal/gを求めます。
実践の手順(簡単)
- DERを用意する。
- フードの表示からkcal/100gを確認し、kcal/gに直す。
- 上の式でg/日を計算する。
- おやつやトッパーのカロリーは別に計算して、全体のDERから差し引く。
注意点
- 表示値は製品ごとに違います。必ずパッケージの数値を使ってください。
- 給餌量は目安です。体重や体型の変化を2週間程度観察し、増減を調整してください。
- ドライとウェットで水分量が異なるため、同じ重さでもカロリーは変わります。表示に基づいて計算しましょう。
計算結果はキッチンスケールで正確に量り、少しずつ調整することをおすすめします。
老犬の食事量に関する重要な注意点
基本方針
老犬は成犬期に比べて消化吸収が落ち、活動量も減るため、給餌量は目安として成犬時の約7〜8割に抑えることが多いです。ただし個体差が大きいので、体調や体重の変化を見ながら調整します。
消化機能の低下を考慮する
胃腸が弱くなるため、脂肪や繊維が多い食事は負担になります。消化の良い高品質なたんぱく質を中心に、湿らせたフードやふやかした缶詰を使うと食べやすくなります。
体重と体型のこまめな確認
体重は週に1回程度、ゆっくり量ります。触ってあばらがうっすら分かるか、腰のくびれがあるかをチェックしてください。体重が増えれば給餌量を減らし、減れば増やします。
肥満防止と筋肉維持
筋肉量を保つことが大切です。カロリーを抑えつつ良質なたんぱく質を確保し、散歩など軽い運動を続けてください。
食事回数と食事形態
消化負担を減らすために1日2〜3回に分けると良いです。高齢で飲み込みが難しい場合は、ふやかす・刻むなどの工夫をしてください。
病気や食欲低下への対応
食欲が急に落ちる、嘔吐や下痢が続く、体重が急激に変わる場合は早めに獣医師に相談してください。薬や療法食が必要なことがあります。
老犬の給餌回数
推奨回数
老犬は一日の食事を3~4回に分けることが一般的におすすめです。消化器の働きが若い頃より鈍くなるため、一度に大量に与えると負担がかかります。回数を増やすことで消化を助け、嘔吐や下痢のリスクを減らせます。
なぜ分けるのか(理由とメリット)
- 消化負担の軽減:少量ずつ与えると胃腸に優しいです。
- 血糖値の安定:特に糖尿病の可能性がある犬では有効です。
- 食欲の管理:食欲が不規則なときでも少量を何回かに分けると摂取しやすくなります。
回数と1回量のバランス(具体例)
1日総量が決まっている場合、回数を増やすほど1回あたりの量は少なくなります。例:1日の総量が300gなら、3回で1回100g、4回で1回75gになります。少量ずつを複数回与えると消化に優しく、食べ残しも減ります。
実際の与え方のポイント
- 食事時間はできるだけ決める(毎回同じ時間帯)
- 食べ残しや下痢、嘔吐が続く場合は速やかに獣医師へ相談する
- 就寝前に少量の軽食を与えると夜間の空腹を和らげられますが、個体差があるので注意してください
特別な状況での工夫
- 嗜好性が落ちた場合はウェットフードやぬるま湯で香りを出す
- 投薬が必要な場合は薬と一緒に小分けで与えると確実に薬を摂取できます
- 食欲が極端に落ちたら早めに獣医師に相談して栄養補助策を検討してください。
実践的な給餌量の目安表
目安表(モグワンを例にしたシニア犬の1日量)
- 体重1~4kg:25~70g
- 体重5~10kg:83~139g
- 体重11~15kg:149~188g
- 体重16~20kg:198~233g
使い方のポイント
この表はあくまで目安です。個体差や活動量、基礎代謝で必要量が上下します。まずは表の真ん中あたりの量から始め、1〜2週間ごとに体重と体型(触診で肋骨が軽く触れるか)を確認してください。体重が増える場合は給餌量を10%前後減らし、減る場合は同程度増やします。
高齢期の調整
噛みづらさや食欲の低下がある場合は、ふやかす、水分を足す、1回量を減らして回数を増やすなど工夫してください。おやつやトッピングのカロリーも合計に含めます。
注意点
病気や投薬、特別な療法食を使う場合は獣医師の指示に従ってください。また、急な体重変化や食欲不振が続く場合は速やかに受診してください。
まとめ
老犬の食事量計算は、次の3段階で行うと分かりやすく、実際の管理にも役立ちます。
- RER(安静時必要エネルギー)をまず出す。体重を基に算出し、基礎のエネルギー量を把握します。
- DER(1日必要エネルギー)で年齢や活動量、健康状態を反映させる。必要に応じて係数を掛けます。
- 給餌量に換算し、実際のフードのカロリーに合わせて調整する。
消化機能は年齢とともに低下しやすいので、給餌量を決めたら終わりにせず、定期的に観察してください。体重や体型、便の状態、食欲の変化を週単位で確認し、5〜10%程度の体重変動があれば給餌量を再計算します。小分けにして与えると消化負担が軽くなります。
食欲不振や急激な体重減少、嘔吐・下痢が続く場合は、すぐ獣医師に相談してください。正確な計算と日々の観察を組み合わせることで、老犬が穏やかに過ごせる食事管理が実現します。