目次
はじめに
目的
この資料は、愛犬がご飯を食べないときに考えられる原因と対処の手がかりを分かりやすくまとめたものです。飼い主さんが不安になったときに、まず何を確認すればよいかを丁寧に示します。
誰に向けているか
初めて犬を飼う方や、普段は元気な子が急に食欲を落としたと感じた方に向けています。獣医師の専門書のような難しい言葉は使わず、具体的な例を交えて説明します。
本書の構成と読み方
第2章から第7章で、食欲不振を引き起こす主な要因をそれぞれ分かりやすく解説します。第8章では特に注意すべき危険な症状とその対応を示し、第9章で家庭でできる対処法や受診の目安をまとめます。必要に応じて、気になる章だけを先に読むこともできます。
安全に関する注意
一時的な食べむらはよくありますが、24〜48時間以上ほとんど何も食べない、嘔吐や下痢、ぐったりしている、呼吸が苦しそうな場合は早めに獣医師に相談してください。本資料は判断の補助を目的とし、診断や治療を代替するものではありません。
愛犬の食欲不振の原因は多岐にわたる
概要
犬の食欲不振は単なる好き嫌いで片付けられないことが多いです。病気に由来するものと、心理や環境が原因のものに大きく分かれます。まずは原因を整理することで、適切に対応できます。
病的原因(具体例)
- 消化器トラブル:嘔吐や下痢があれば食欲が落ちます。胃炎や腸の炎症、寄生虫などが原因です。
- 口の痛み:歯周病や口内炎で噛めなくなり食べられません。よだれや口臭が目立ちます。
- 全身の病気:感染症、肝臓や腎臓の病気、内分泌の異常などでも食欲が落ちます。
- 薬の副作用:投薬中に食欲が低下することがあります。処方薬の説明を確認してください。
心理・環境による要因(具体例)
- ストレス:引っ越しや来客、騒音で食欲が落ちます。
- 食事の急な変更:フードを変えた直後は食いつきが悪くなることがあります。
- 飼い主の対応:食事の時間が不規則だと不安になり食べない場合があります。
チェックポイント(飼い主ができる観察)
- 何日続いているか、吐いたり下痢はあるか
- 元気や水を飲む量、体重の変化
- 口臭やよだれ、触ったときの痛がり方
受診の目安
1〜2日で改善しなければ獣医へ相談してください。特に嘔吐が続く、血便や高熱、ぐったりしている場合はすぐ受診が必要です。
消化器系の疾患が最も一般的
消化器系の問題は、犬が食欲を落とす最も多い原因です。急性胃腸炎や異物誤飲が代表的で、嘔吐や下痢を伴うことが多く見られます。
よくある疾患と特徴
- 急性胃腸炎:吐く・下痢を急に起こします。腐ったものや急な食事の変化が引き金になります。
- 異物誤飲:おもちゃや布を飲み込み、詰まりを起こすと激しい嘔吐や痛みを示します。早めの受診が必要です。
- 膵炎:嘔吐や元気消失、腹痛が出ます。脂っこい食事が悪化要因になることがあります。
- 慢性腸症・食物アレルギー:長期の下痢や体重減少、食欲低下が続きます。
- 寄生虫:便に虫が見えることがあります。成長不良やかゆみを伴う場合があります。
- 消化器腫瘍:高齢犬で徐々に食欲が落ち、体重が減ることがあります。
検査と治療の流れ
獣医は触診、血液検査、糞便検査、X線や超音波で診断を進めます。異物や腫瘍は手術、感染や炎症は薬や点滴、寄生虫は駆虫薬で治療します。
家庭でできること
水分補給を助け、嘔吐が続く場合は無理に食べさせず獣医に相談してください。人用の薬は与えないでください。
歯科・口腔疾患による食欲低下
主な症状
- 口臭が強くなる
- よだれや血が混じる、歯ぐきが赤い
- 歯がぐらつく、折れる
- 食事中に顔をそむける、硬いものを残す
これらは歯や口の痛みが原因で、食欲が落ちる典型的なサインです。
どうして食べなくなるのか
歯周病や口内炎は痛みを伴います。噛むときに痛むため、いつものドライフードやおやつを避けます。炎症で味覚が変わることもあり、匂いを嫌がって食べないことがあります。
家で気づけるポイント
- 食べるときに片側だけ使う、食べこぼしが増える
- 食器に血がつく
- 手で口を触ると嫌がる
夕食のときの様子を観察し、写真やメモを残すと獣医に伝えやすいです。
獣医での診断と治療
獣医は口の中を直接見て、必要ならレントゲンや麻酔下での処置を行います。治療は歯石除去や抜歯、抗生物質や痛み止めの投薬が中心です。放置すると慢性化して全身に影響を与えることがあります。
日常の予防と対処法
- 歯ブラシやガーゼでの歯みがき(無理はしない)
- 柔らかいフードや缶詰に替えて様子を見る
- 硬いおやつは一時中止
定期的に口の中をチェックし、違和感があれば早めに受診してください。
全身性の疾患による食欲不振
心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)
心臓の働きが悪くなると全身の血流が乱れ、胃や腸の動きが落ちます。結果として胃もたれや吐き気が出て、食べる気がなくなります。咳や疲れやすさ、運動を嫌がる様子があれば心臓の影響を疑います。
肺に水が溜まる(肺水腫)
肺に水がたまると呼吸が苦しくなり、食事どころではなくなります。呼吸が早い、息が苦しそうに口を開ける、横になれない場合はすぐに受診が必要です。
腎臓病・肝臓疾患
腎臓病では毒素が体に残り、吐き気や口臭、口の中の変化で食欲が落ちます。肝臓病も同様に消化吸収が乱れ、元気がなくなります。水をよく飲む、尿や便の変化、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)を確認してください。
糖尿病
糖尿病では体が十分に栄養を使えず、最初は食欲が増えることもありますが、進行すると体がだるくなり食べなくなります。多飲多尿、体重減少が目立ちます。
見分け方と受診の目安
全身性の病気は食欲低下以外に咳、呼吸不全、嘔吐、下痢、異常な水の飲み方、体重減少などが出ます。こうした症状がある場合は早めに獣医師に相談してください。診察で血液検査やレントゲン、超音波などで原因を調べます。
ストレスと生活環境の変化
説明
引っ越しや家族構成の変化、騒音、ペットホテルの利用などは犬にとって大きなストレスになります。環境が変わると普段の食欲が落ちることがあり、これは身体の調子だけでなく心理的な影響が原因です。
主なストレス要因と具体例
- 引っ越し:慣れた匂いや居場所がなくなる
- 家族の増減:赤ちゃんや来客、介護などの変化
- 騒音や工事:大きな音で落ち着けない
- ペットホテルや預け先:慣れない場所や人
- 生活リズムの変化:散歩や食事の時間がずれる
食欲不振以外のサイン
- いつもと違う不活発さ、隅に隠れる、過度な吠えや震え
- 排泄の変化や睡眠リズムの乱れ
対処法(家庭でできること)
- できるだけ日常のルーティンを守る
- お気に入りの毛布やおもちゃを近くに置く
- 新しい環境には徐々に慣らす(短時間から始める)
- 食欲が落ちたら温めたフードや香りの強い缶詰を少量ずつ与える
- 穏やかな散歩や遊びで気分転換を促す
受診の目安
- 食事をほとんど取らない、体重が減る、嘔吐や血便がある場合は早めに獣医師に相談してください。
年齢と持病による影響
シニア犬で起きやすい変化
年を取ると消化の働きや咀嚼(そしゃく)力が落ちやすく、食べる量が自然に減ります。歯が抜けたり、噛む力が弱まると固いフードを避けるようになります。歩きづらくて食事の場所に行くのがつらい例もあります。
持病が食欲に与える影響
慢性の腎臓病や肝臓病、心臓病、糖尿病などは、吐き気や口の渇き、味覚の変化を引き起こしやすく、食欲低下につながります。例えば腎臓病ではにおいに敏感になり、好んでいたフードを急に嫌うことがあります。
薬の影響と注意点
長期治療で使う薬は副作用として食欲不振を招くことがあります。痛み止めや一部の抗生物質、心臓の薬などが該当します。薬を自己判断で中止せず、獣医師へ相談しながら調整してください。
日常でできる工夫
・軟らかくふやかしたり、温めて香りを立たせる
・一口大に切る、少量ずつ回数を増やす
・食べやすい姿勢を作るために器の高さを変える
・体重や排泄の変化をこまめに記録して獣医師に伝える
高齢や持病のある犬は個体差が大きいです。普段と違う様子が続く場合は早めに相談してください。
危険な症状と対応の重要性
緊急性を見分ける
嘔吐、激しい下痢、水も飲まない、ぐったりしている、急激な体重減少、呼吸が速い・苦しそうなどは緊急事態です。子犬や高齢犬、持病のある犬は短時間で状態が悪化しやすいので、早めに行動してください。
主な症状と今すぐできる対応
- 嘔吐・下痢:水分補給を優先し、吐いた物や下痢便の時間・色を記録します。24時間以上続く場合は受診を。止血や血便があるときはすぐ受診してください。
- 水を飲まない:脱水が進みます。口周りを濡らすなど無理のない方法で水分を促し、ぐったりしている場合は点滴が必要です。
- 元気消失・ぐったり:体温や呼吸を確認し、暖かく静かな場所で休ませてください。反応が鈍いときは緊急受診を。
- 呼吸異常:苦しそうに呼吸する、青白い歯や粘膜が見られるときは命に関わります。すぐに診察を受けてください。
受診時に伝えること・持ち物
来院時は症状の始まった時間、食べたもの、薬の有無、持病や予防接種歴を伝えます。嘔吐物や下痢便をビニールに入れて持参すると診断が早まります。
栄養不足が続く影響
食べられない期間が続くと筋力低下、免疫力の低下、持病の悪化につながります。特に幼犬は成長障害、高齢犬は体力低下が急速に進みます。
日常の備え
緊急連絡先(かかりつけ獣医・夜間救急)を用意し、体調の変化を早く見つける習慣をつけましょう。少しでも不安があれば早めに相談してください。
対応方法
はじめに
食欲が落ちたときは早めの観察と対応が大切です。家庭でできることと獣医師に相談すべきタイミングを分けて説明します。
初期対応(家庭でできること)
- 様子を観察する:元気の有無、嘔吐・下痢の有無、飲水量、体重変化を確認します。
- 食べやすくする:ぬるめに温めた缶詰や茹でた鶏ささみ、少量ずつ与えるなど、香りや食感を工夫します。
- 少量頻回にする:一度に多く与えず、回数を増やして様子を見ます。
水分と衛生の確認
- 水分補給を優先します。飲まない場合は新鮮な水や薄めた電解質飲料を勧めます。
- 排泄の回数や色を記録してください。血が混じる、極端に少ない・多い場合は受診が必要です。
薬やサプリの扱い
- 人用の薬を与えないでください。市販のものも危険な場合があります。
- サプリや整腸剤は獣医師と相談のうえで使用してください。
獣医師に相談するタイミングと準備
- 24〜48時間で改善しない、または元気がない・繰り返す嘔吐・血便・けいれんなどの症状がある場合は速やかに受診してください。
- 持参すると診察がスムーズ:普段のフード、残した食べ物の写真や容器、嘔吐物や便の写真、投薬歴、体重の変化記録。
持病のある犬の対応
- 持病がある場合は獣医師と連携してフード選びや治療を行います。処方食の変更は必ず相談してください。