目次
はじめに
背景と目的
高齢犬が急にごはんを食べなくなり、水は飲むが吐く――飼い主にとって不安な状況です。本書はそのような症状の原因と対応をわかりやすく整理し、家庭でできる初期対応から獣医師の診察で期待できること、予防までを網羅します。
本書で扱う内容
・食事習慣や消化器の変化による原因の見分け方
・自宅でできる応急処置と注意点
・危険な兆候と緊急対応の目安
・獣医師が行う検査・治療の概要
・日常の予防と健康管理のポイント
想定読者と使い方
高齢犬を飼っている方、症状が出た時にまず何をすべきか知りたい方を想定します。読み進めることで、病院に行くべきか自宅で様子を見るかの判断がしやすくなります。
注意点(大切な心得)
吐き気は軽症のこともありますが、命に関わる場合もあります。症状が急に悪化する、ぐったりする、血が混じるなどの変化があれば、速やかに獣医師に連絡してください。
犬が嘔吐する主な原因と対処法
食事習慣に関係する原因と対処法
- 食べ過ぎ・早食い:短時間で大量に食べると胃がびっくりして吐きます。対処法は分量を減らし、1回量を小さくして回数を増やすことです。早食いには「早食い防止ボウル」やおやつを少しずつ与える方法が有効です。
- 不適切な食事方法:高脂肪の人間の食べ物や刺激物は避けましょう。例えば、脂っこい料理やチョコレートは中毒を引き起こします。
- フード変更:急な切り替えは吐きや下痢を招きます。新しいフードは7〜10日かけて少しずつ混ぜて切り替えてください。
- 空腹時の嘔吐(胆汁性嘔吐症候群):朝や空腹時に黄色い液体を吐く場合は、少量の軽いおやつを夜間に与えることで改善することがあります。
消化器系の異常
- 腸胃炎:下痢や嘔吐が同時に起きることが多く、数回の嘔吐で元気があれば一時的な安静で良くなることもあります。水は少しずつ与え、24時間以上続く場合は受診してください。
- 腸閉塞:異物を飲み込んだ後は嘔吐が続き、食欲不振や腹痛を伴います。迅速な診察と場合によっては手術が必要です。
- 胃潰瘍・膵炎:血が混ざる・強い腹痛・発熱がある場合は重篤な疾患を疑い、速やかに獣医師の診察を受けてください。
深刻な全身性の原因
- 腎臓病・肝臓病:慢性的な嘔吐や体重減少、飲水量の変化、黄疸などが見られます。血液検査で評価します。
- 腹膜炎・腫瘍・寄生虫・内分泌異常:症状はさまざまで、持続する・悪化する嘔吐は精密検査が必要です。定期的な糞便検査や血液検査で早期発見に努めましょう。
注意点:嘔吐が一度だけで元気ならまず様子を見て構いませんが、何度も吐く、血が混じる、ぐったりしている、痛がる場合はすぐに受診してください。
緊急対応が必要な危険な兆候
はじめに
以下の症状が見られた場合は、速やかに獣医師の診察を受けてください。命にかかわることがあります。
すぐに受診が必要な症状と理由
- 24時間以内に複数回の嘔吐:脱水や胃腸の深刻な障害を示すことがあります。短時間に何度も吐く場合は受診を。
- 元気がない・異常な疲労感:毒物や感染症、内臓疾患のサインです。
- 継続的な食欲不振:24時間以上食べない場合は診察を。
- 嘔吐と同時に下痢:脱水が早く進みます。特に子犬・高齢犬は危険です。
- 嘔吐物に血が混じる:消化管の出血や重篤な傷害の可能性があります。
- 痛みや不快感の兆候(鳴く、縮こまる、触られるのを嫌がる):内臓や腹部の問題があるかもしれません。
- 腹部が膨張している:胃拡張・捻転(いわゆる胃捻転)は急変しやすく緊急手術が必要です。呼吸困難や虚脱が現れたら直ちに搬送を。
- 有毒物質を誤食した疑い:チョコレート、タマネギ、ブドウ、家庭用洗剤、殺鼠剤など。包装や残骸を持参してください。
応対のポイント
- 事前に動物病院に電話して症状を伝え、指示を受けてください。
- 嘔吐物や飲み込んだ可能性のある物の写真や包装を持参することで診断が早まります。
- 獣医師に指示されない限り、自己判断で吐かせたり薬を与えないでください。
- 脱水が疑われる場合、口に無理に水を入れず、速やかに受診を。移動は落ち着かせて行ってください。
緊急時に伝える情報(病院へ連絡する際)
- 犬種・年齢・体重
- 嘔吐が始まった時間と回数
- 嘔吐物の色や内容(血、食べた物の残り)
- 心当たりの誤食物やお薬
- その他の症状(下痢、痙攣、呼吸困難など)
以上の兆候が見られたら、躊躇せずに獣医師に連絡してください。迅速な対応が命を救います。
自宅での応急処置
まずすること
・嘔吐直後は食事を与えず、6〜12時間程度は胃を休ませます。軽度で他に症状がなければこれで回復する場合が多いです。
水分補給
・新鮮で清潔な水をいつでも飲めるように置きます。少量ずつ頻繁に飲ませて脱水を防ぎます。
観察ポイント
・嘔吐の回数と時間間隔、元気や食欲、呼吸、しぐさ(腹痛や震え)、嘔吐物に血が混じっていないかを注意深く見ます。変化があればメモすると獣医に伝えやすいです。
食事の再開方法
・状態が落ち着いたら、消化に良い食事(茹でた鶏肉とご飯など)を少量ずつ与えます。1〜2日かけて通常の食事量に戻します。
家庭でしてはいけないこと
・人間用の薬を勝手に与えないでください。牛乳や脂っこい食べ物も避けます。
嘔吐物や清潔の対処
・嘔吐物は手袋や使い捨てペーパーで処理し、消毒します。犬を清潔に保ち、暖かい場所で休ませます。
受診の目安
・嘔吐が続く、血が混じる、高熱やけいれん、元気が急に低下する、飲水できない場合はすぐに獣医に相談してください。
(詳細な診断や治療は獣医師の判断が必要です)
獣医師による専門的治療
診察の流れ
獣医師はまず全身状態を観察し、問診で嘔吐の頻度や内容、食事・誤飲歴を確認します。その上で触診や体温、心拍などの基本検査を行います。
診断検査
必要に応じて血液検査(炎症や電解質異常、肝・腎機能)、X線や超音波検査で消化管の状態や異物、腹水の有無を調べます。これらで原因の絞り込みや重症度評価を行います。
治療(薬物・点滴)
止吐薬や胃保護剤を処方し、脱水があれば皮下あるいは静脈輸液で補液します。痛みや感染が疑われれば鎮痛薬や抗生物質を使用します。
入院と重症対応
重症例や継続的な輸液・管理が必要な場合は入院治療を行い、詳しい治療計画を立てます。重篤な消化管の損傷や有害物質中毒では集中管理が必要です。
膵炎への対応
急性膵炎では酵素分泌を抑える治療や絶食・輸液管理、痛み対策を行い、入院を要することが多いです。慢性膵炎では低脂肪で消化しやすい食事など厳格な食事管理を中心に長期的に管理します。
退院後の注意
薬の指示や食事変更、再診のタイミングを守って経過観察してください。小型犬・高齢犬や持病がある場合は早めに相談を勧めます。
予防と健康管理
食事管理
天然で添加物の少ない栄養バランスの良い食事を与えます。市販の成犬用・子犬用・高齢犬用のフードは、年齢ごとの栄養が調整されています。たとえば子犬はタンパク質を多めに、高齢犬は消化に優しい低脂肪のものが向きます。人間の食べ物を与える際は、玉ねぎやチョコなど中毒になる食品を避けてください。
体重管理と運動
適正体重を保つために、給餌量を守り、毎日の散歩や遊びで運動を促します。過体重は内臓疾患や関節の負担につながるので、体型を定期的にチェックします。
定期検診と予防医療
年1〜2回の健康診断、年齢や生活に応じたワクチンや寄生虫予防を受けます。早期発見が治療の鍵です。
環境と誤食予防
片付けて危険物を手の届かない場所に置きます。庭や散歩中の拾い食いに注意します。
高齢犬・持病の管理
関節サプリや低カロリー食、定期的な血液検査で状態を確認します。異変があれば早めに獣医師に相談してください。