目次
はじめに
本書の目的
本書は、高齢犬(老犬)に向けた手作りご飯の作り方と作り置き保存方法を丁寧に解説します。老犬は消化力や歯の状態、運動量が若い犬と異なります。食事を工夫することで、体調の安定や生活の質向上につながります。
対象となる犬と飼い主
- 年齢の目安:概ね7歳以上の中〜大型犬、またはシニア期に入った小型犬
- 状態:歯が弱い、消化が苦手、体重管理が必要など
- 飼い主:忙しくても栄養に配慮した手作りを続けたい方
本書の使い方
各章で食材選び、栄養の基本、簡単な調理法、具体的なレシピと作り置き術を順に説明します。はじめは基本原則を確認し、体調に合わせてレシピを調整してください。獣医師の指導がある場合はそれに従ってください。
注意点
食材のアレルギーや既往症がある場合は、獣医師と相談しましょう。保存方法や加熱の加減を守り、衛生的に調理してください。
老犬に手作りご飯が必要な理由と基本原則
はじめに
年をとった犬は体の機能が変わり、食べ物にも配慮が必要です。手作りご飯は素材を選べて調整しやすく、体にやさしい食事を作れます。
老犬に手作りが向く理由
- 消化力の低下:胃腸の働きが弱くなるため、消化しやすい食材や調理法が助けになります。
- 噛む力や歯の問題:固いドライフードが食べにくくなることが多く、柔らかく調理すると食べやすくなります。
- 個別の栄養調整:体調や病気(腎臓病、肝臓病など)に応じて塩分やタンパク質を調整できます。
- 添加物を避けやすい:市販品に比べて保存料や香料を省けます。
基本原則(実践のポイント)
- 野菜は柔らかく煮るか蒸す。消化しやすい大きさに切る。
- タンパク質はよく火を通し、細かくほぐす。脂は控えめに。
- 量は小分けで頻回に与える。食欲が落ちたら回数を増やす。
- 水分を多めにする。スープやおかゆで水分補給を助ける。
- 塩・砂糖・香辛料は使わない。味付けは不要です。
調理と安全の注意点
- 与えてはいけない食材(玉ねぎ、にんにく、ぶどう、チョコレート、キシリトール等)に注意する。
- 骨は割れて刺さる危険があるため与えない。
- 食材は新鮮なものを使い、保存は冷蔵で短期間にする。
食事の見直しと相談
体重、便の状態、元気度を定期的に確認し、異変があれば獣医師に相談してください。既往症がある場合は、獣医師と相談して栄養バランスを決めましょう。
栄養バランスの基本と食材選びのコツ
基本の割合
老犬の手作りご飯は「肉7割:野菜3割」を目安にします。肉(タンパク質)は筋肉や免疫の維持に大切です。野菜は消化を助け、ビタミンや食物繊維を補います。
タンパク質の選び方
基本は低脂肪で消化しやすいササミや胸肉です。魚が好きな子には白身魚(タラ、カレイなど)を使うと良いです。皮や脂肪は取り除き、火を通して与えます。卵(加熱)は良質なたんぱく源ですが、量は1日1個までが目安です。
野菜の選び方と調理法
使える野菜は大根、白菜、ブロッコリー、人参、じゃがいも、キャベツなどです。柔らかく茹でたり蒸したりしてから小さく刻むか潰して与えます。固いままだと消化しにくいので注意してください。
避けるべき食材
タマネギは犬に有害なので必ず避けます。ニンニク、ネギ類、生のキノコ、ぶどう、チョコレート、キシリトール含有の食品も危険です。
脂質と補助
高齢犬は関節や被毛のために適量の良質な脂を必要とします。魚油(オメガ3)を少量足すと良い場合がありますが、与える前に獣医に相談してください。
各食材は少量ずつ試してアレルギーや消化の様子を観察してください。
簡単調理法と加熱のポイント
調理の基本
老犬のご飯は「やわらかく」「食べやすく」を第一に考えます。材料は小さめに切り、火を通して柔らかくします。調味料は基本的に不要です。犬の好みや体調に合わせて調整してください。
余熱の使い方
加熱は強火で短時間より、火を止めてからの余熱で仕上げると過加熱を防げます。たとえば煮物は沸騰後に弱火で数分煮て火を止め、鍋の蓋をして余熱で味と柔らかさを落ち着かせます。温度が均一になり、食材の栄養を壊しにくくなります。
具材の下処理と切り方
肉は脂を取り、筋や骨を除きます。野菜は繊維に沿って細かく切るか、短時間で崩れる大きさに切ります。硬い根菜は薄切りか小さめの角切りにしてから煮ます。
柔らかくする加熱法
じっくり煮込むと繊維がほぐれて柔らかくなります。圧力鍋を使うと短時間で柔らかくできますが、素材の状態を見ながら時間を調整してください。煮汁を残すとさらに食べやすくなります。
炭水化物の煮方・とろみの出し方
米やじゃがいもは水を多めにして煮るととろみが出ます。お粥状にすると飲み込みやすく、消化にも優しいです。片栗粉は少量でとろみを付けられますが、使う場合は冷ます前に加えてしっかり混ぜてください。
小型犬や飲み込みが苦手な犬への仕上げ
ペースト状にする場合はブレンダーやすり鉢を使います。温度は触ってぬるいと感じる程度まで冷ましてから与えてください。
保存と再加熱の注意
作り置きは冷蔵で2〜3日、冷凍すると1か月が目安です。再加熱は湯せんや弱火でゆっくり温め、電子レンジを使う場合はムラが出ないよう混ぜながら短時間にしてください。
具体的なレシピ例①「サーモンと玄米ご飯」
材料(犬中型犬1回分の目安)
- サーモン(生・皮なし) 60g
- 玄米 50g(炊く前)
- シメジ、マイタケ 合わせて40g
- 水 250〜300ml
- オリーブオイル 小さじ1/2(仕上げ用、任意)
下ごしらえ
- サーモンは皮と骨を取り、一口大に切ります。骨は細かく残ると危険ですので必ず確認してください。
- キノコは手でほぐし、食べやすい大きさにします。
- 玄米は軽く洗い、30分ほど水につけると柔らかく炊けます(時間がない場合は省略可)。
作り方
- 鍋に玄米と水を入れ、中火にかけます。
- 沸騰したら弱火に落とし、蓋をして約20〜30分炊きます。
- 炊き始めてから残り10分程度のところでサーモンとキノコを上にのせ、蓋をして同様に炊きます。
- 火を止めて5分蒸らし、全体をやさしく混ぜ合わせます。
- 十分に冷ましてから、食べやすい温度で与えてください。仕上げにオリーブオイルを少量まぶすと皮膚や被毛に良い脂が補えます(犬によっては不要)。
ポイント・注意点
- サーモンは生食ではなく十分に加熱してください。生の魚は寄生虫や細菌の危険があります。
- 塩、醤油、油の多い調味料は使わないでください。味付けは不要です。
- キノコは種類によって消化が難しい場合があります。初めて与えるときは少量から試してください。
- 体重や健康状態により量を調整してください。腎臓や肝臓に問題がある場合は獣医と相談してください。
与え方の目安
- 中型犬(10〜20kg)なら1回分の目安量です。小型犬は半分、大型犬は量を増やして調整してください。
- 食事の温度は人肌程度(40℃前後)に冷ましてから与えると安全です。
具体的なレシピ例②「おかゆ」
材料(1回分の目安)
- 米 大さじ3(約30g)
- 水 200〜300ml(米の7〜10倍が目安)
作り方
- 米を軽く洗ってざるにあげます。
- 鍋に米と水を入れて強火で沸騰させます。
- 沸騰したら弱火にしてふたを少しずらし、30〜60分煮ます。時々かき混ぜて焦げ付きを防ぎます。
- 好みの柔らかさになったら火を止め、粗熱を取ります。滑らかにしたい場合はブレンダーで混ぜてください。
老犬向けのポイント
- 味付けは不要です。塩や調味料は使わないでください。
- 消化しやすくするため柔らかめに炊きます。口が弱い子はブレンドして滑らかにします。
- タンパク質や野菜を少量足す場合は、必ず加熱して細かく刻むかすり潰してから混ぜます(鶏むね肉、かぼちゃ、人参など)。
- 腎臓病や糖尿病など持病がある場合は、獣医に相談してください。
保存と与え方
- 冷蔵で2日以内、冷凍なら1か月を目安に保存します。
- 与える際は十分に加熱して冷まし、ぬるま湯程度の温度にしてください。小分けにして少量ずつ与えると食べやすいです。
具体的なレシピ例③「かぼちゃバナナクリームのパン」
材料(小型犬1〜2回分)
- かぼちゃ(蒸す・茹でる)50g
- バナナ 1/2本
- 食パン(耳を落とす)1枚
- 根菜(にんじんや大根など)30g
- キウイ(飾り用)少量
作り方
- かぼちゃは皮を取り、柔らかくなるまで蒸すか茹でます。熱いうちにフォークでつぶします。
- バナナを加え、滑らかになるまでよく混ぜます。必要ならすり鉢やブレンダーでクリーム状にします。
- 根菜は薄切りまたはすりおろしにして、柔らかく茹でます。食べやすい大きさに切ります。
- 食パンは中央をくり抜いて器状にします。耳は細かく刻んでトッピングにしてもよいです。
- くり抜いたパンに根菜を敷き、その上にかぼちゃバナナクリームを重ねます。冷めてからキウイを薄切りにして飾ります。
与え方と注意点
- 温度は人肌程度に冷ましてから与えてください。熱いままは火傷の原因になります。
- 砂糖や油、塩は使いません。素材の甘みで十分です。
- バナナはエネルギー源として優れますが、与えすぎると下痢の原因になるため量を守ってください。
- キウイは少量に留め、初めての場合は少量から様子を見ます。
保存とアレンジ
- 当日中に使い切るのが安全です。冷蔵保存する場合はラップで密封し、24時間以内に与えてください。
- かぼちゃをさつまいもに替えると繊維が増え、好みに応じて調整できます。
ワンポイント:舌触りを滑らかにすると高齢犬でも食べやすくなります。小さく切り分けて、少量ずつ与えてください。
作り置きに便利なレシピ例④「混ぜご飯」
概要
サツマイモやカボチャに鶏のささみやツナ(缶詰)を混ぜた混ぜご飯は、作り置きに向きます。味が淡く消化も良いため、老犬の食欲が落ちた時にも与えやすいです。
材料(作りやすい分量:2〜3回分)
- 炊いたご飯 200〜300g
- さつまいも or かぼちゃ 100g(皮を除き一口大)
- 茹でたささみ 80g(または水煮のツナ 1缶)
- すりおろし人参 少々(彩りとβカロテン)
- オリーブオイル 小さじ1(仕上げ用)
作り方
- さつまいも/かぼちゃは柔らかくなるまで蒸すか茹でます。
- ささみは茹でて細かく裂くか刻みます(ツナは水気を切る)。
- 炊いたご飯に野菜と肉を混ぜ、冷ましてからオリーブオイルを混ぜます。塩や調味料は不要です。
保存と再加熱
- 冷蔵:密閉容器で2〜3日
- 冷凍:小分けにして1か月程度
- 解凍は冷蔵庫で自然解凍し、温める場合は人肌〜ぬるま湯程度に温めてください。熱くなりすぎないよう注意します。
与え方のポイント
- 食べやすい柔らかさにすること。歯が弱い犬は野菜をよく潰しましょう。
- 1回量は普段の食事量に合わせ、小分け保存で鮮度を保ちます。
注意点
- タマネギ、ネギ、ニンニクは絶対に使わないでください。人用の調味料や塩は不要です。
- 食材にアレルギーがある場合は避け、獣医と相談してください。
バリエーション
- 炊き込みご飯の代わりに雑穀ご飯や玄米に変えると栄養価が上がります。
- 鶏そぼろや白身魚に替えても喜ばれます。
作り置きに便利なレシピ例⑤「犬用ハンバーグ」
材料(小型犬向け4個分の目安)
- 食パン(耳を落とす) 1枚
- 豆腐(木綿) 100g
- 卵 1個
- 鶏ひき肉または合挽き肉 150g(お好みで)
- サツマイモまたはカボチャ(蒸してつぶす) 50g
- 野菜(にんじん、ブロッコリー等) 少量
- オリーブオイル 小さじ1
作り方
- 食パンは水かぬるま湯に浸して柔らかくし、軽く絞る。
- 豆腐は水切りし、ボウルで食パン、卵とよく混ぜてベースの生地を作る。
- ひき肉を加え、つぶしたサツマイモや刻んだ野菜を入れてこねる。手で丸めて平たくする。
- フライパンにオリーブオイルを熱し、弱めの中火で両面をしっかり焼く(中心まで火を通す)。
保存と解凍
- 完全に冷ましてからラップで1個ずつ包み、冷凍保存(保存目安:冷凍約1か月)。
- 給与前は冷蔵で自然解凍か、電子レンジの低出力で温める。
与えるときのポイント
- 温度を必ず確認し、熱すぎないようにする。
- 初めての食材(肉や芋など)は少量ずつ試し、体調を確認する。
バリエーションと注意点
- 塩や砂糖、玉ねぎ、にんにくは絶対に使わないでください。味付けは不要です。
- タンパク質源を豆腐だけにするときは、犬の年齢や体調に応じて獣医と相談してください。
保存が利き、使いやすいので忙しい日にも便利な一品です。
作り置きに便利なレシピ例⑥「犬用お好み焼き」
説明
小麦粉と山芋を生地に加え、お好み焼き風にふんわりと焼き上げます。かつお節でミネラルと風味を補い、かさ増しやコスト節約にもなります。食べやすく切って作り置きできるレシピです。
材料(小型〜中型犬向け、約4〜6枚分)
- 小麦粉:100g(アレルギーがあれば米粉でも代用)
- 山芋(すりおろし):50g
- 卵:1個
- 水または無塩だし:100ml
- 鶏ひき肉:100g
- キャベツ(みじん切り):100g
- にんじん(すりおろし):30g
- かつお節:小さじ1〜2
- 油:少量(焼くとき用)
作り方
- ボウルに小麦粉、山芋、卵、水を入れてよく混ぜ、生地を作ります。ダマが残らないようにします。
- ひき肉、キャベツ、にんじん、かつお節を加えて均一に混ぜます。
- フライパンに薄く油を引き、中火で熱します。スプーンやお玉で一枚分ずつ流し入れ、弱めの中火で片面3〜4分、裏返してさらに3〜4分焼きます。中心まで火を通してください。
- 粗熱を取って食べやすい大きさに切り分けます。
保存と与え方
- 冷蔵:3日以内に使い切る。
- 冷凍:1ヶ月を目安に保存。使う分だけ解凍し、電子レンジや湯煎で温めます。
- 与えるときは一度にたくさん与えず、少量ずつ様子を見て増やしてください。目安として小型犬は1回半枚〜1枚、中型犬は1〜2枚を目安に調整します。
注意点
- 塩、砂糖、ネギ類、玉ねぎは絶対に使わないでください。中毒の原因になります。
- 小麦アレルギーが疑われる場合は米粉に替えてください。
- 持病がある犬や療法食を与えている場合は、獣医師に相談してから与えてください。
栄養ポイント
鶏肉でたんぱく質を補い、野菜で食物繊維やビタミンを摂れます。かつお節がミネラルと風味を加え、山芋で消化しやすくなります。日常の副食として作り置きし、主食とのバランスを考えて与えてください。